| 2004/8/24 (Tue) |
Trust.
先ははっきりと見えなくても、進みださなきゃいけないとIさんが言った夜。
『ごめんな?こんないい年したおっさんが…辛い思いばっかりさせて…ほんまにごめん。』
オリンピックの中継を見ながら泣く私にIさんが突然そう言った。
『――の辛いの、もうすぐ全部取ったるからな?』
上を向いたまま、私に腕枕をしてIさんがそうぽつりぽつり言う。
聞きながらふと愛おしくなって…Iさんの頬を撫でた時、指が濡れて、Iさんが泣いていることに気付いた。
『にゃんの方がこれからずっと大変になるね。体大事にしてね?』そう言った私に『――がそんなん言わんでええ。』そう言ってIさんが私を抱き締めてくれた。
それは一生懸命な抱き締めかただった。
出会ってすぐの頃。初めて指名でお店に来てくれた時、色んな話をしてくれた。
自分の過去を自嘲的に話した後、Iさんは私にこう言った。
『でもな、死ぬときはのたれ死にや思うで?』
Iさんは自分自身のことを、誰も看取ってくれる人なんか居なくて、独りで死ぬのだと思うと…そう言った。
私は、その時既にお嬢さんの話を聞かせてもらったり、お孫さんの写真を沢山見せても貰ってたからそんな事はないと思った。
家族に、ちゃんと愛されている人だと感じた。本人は、奔放な暮らしの負い目を背負っていても。
『Iさんみたいな人は自分はいっそのたれ死にでもいいと思ってるのに、不義理してきた家族に手厚く看取られて、自分の事“情けないなぁ”とか思いながら死ぬんだと思うよ。』
そんな事を言ったのを覚えてる。少しだけ嬉しそうに『そやろか?』と言ったIさんの顔も。
そしてそれから通産3回くらい『自分はきっとのたれ死ぬ。』という発言を聞いたと思う。
その時、ふいに私はそれを思い出した。
『Iさんはもう独りで死ななくていいよ?』そう言った私にIさんは無言のままでいた。
『本当は私のほうが先に死にたいけど、一日だけ私のほうが長生きしてあげるから…にゃんが死ぬ時にはちゃんと傍に居て、私が手を握っていてあげるからね?』
『…俺は死なんもん。』そう言ったIさんに『よく言うわ。』って笑った私。
相手が独りじゃないって事は、自分も独りじゃないって事だから…。
人間は一人ぼっちじゃないのかもしれないとそう感じられた記憶。もしかしたら時間の流れに負けて、また同じ寂しさを感じるときが来るかもしれない。
人は所詮独りだと…そう呟く瞬間があるのかもしれない。
だけどIさんが傍に居て、私を独りにしなくていいように頑張ってくれている間は…自分はもう一生、独りにはならないのだと信じていようと…そう思う。