2003年 10月 25日(土)

散歩

今日は、慎吾とデートが出来なかった。また、大きな大会が近づいているので、今の慎吾の練習量は半端なものではない。
慎吾が大好きな水泳で、素晴らしい成績を残せるのは私としても本当に嬉しい。
でも、こうして会えない日があるとどうしてこんなに寂しい気持ちになってしまうのだろう。
今までだって、毎週必ず会えた訳じゃないのに。・・・きっと私は、水泳に嫉妬している。
慎吾が私を愛していてくれている事は間違いない。だけど、同じ様に慎吾にとって水泳は無くてはならないものだから・・・。
泳いでいる時の慎吾は、本当に綺麗で・・・ダイナミックで。あのまま水の中に吸い込まれて行ってしまうのでは、と時折不安になる。

そろそろ寝なければ、と思った時・・・メールが来た。
慎吾からだった。
私に、今から出て来れないか、とそのメールは聞いてきた。
慌てて身支度をして、玄関を飛び出しながら返信をする。前も見ずに下を見てメールを打っていたら、どんっ、と何かにぶつかってしまった。
感触で、ぶつかったそれが人間だ、と見当をつけると「すみませんでした」ととりあえず、謝る。
しかし、返答はなく、不信に思って見上げたそこには・・・なんと慎吾が立っていた。
しかも、声を殺して笑っているので、大きな体が小刻みに震えている。

「・・・・・・何がそんなにおかしいのですか?慎吾が出てこれるか、と聞いてきたからこうして慌てて出てきたというのに!」
言いながら、「どこに」とか「何時に」とか待ち合わせる内容が一切書かれていなかった事に気が付いた。
「私が、寝ていたらどうするつもりなんですか・・・」
怒る気力も失せてしまった。
「別に、出てきてくれなくてもええねん。俺が勝手に天音に会いとうなっただけやもん」
にかっ、と笑って思った通りの答えが返って来た。
私が黙って慎吾の顔を見ていると、慎吾がそっと手を握ってきた。とても。冷たくなっていた。
「練習終わってなぁ、寮に帰ろう思って外出たら、お月さんが綺麗だったんや。そしたら無性に天音に会いとうなってなぁ」
繋いだ手を放さずに、慎吾はニコニコと機嫌良くそう言った。言われて空を見上げれば、本当に月が綺麗だった。
「寒いけど、もう少し付きおうてくれるか・・・?」
そんな慎吾の問いかけに、繋がれた手を、私は更に強く握り返して答えた。