| 2003年 11月 13日(木) |
妙案
昼休みにのんびり貢物の紅茶を飲んでいると、瑞樹が血相を変えて飛び込んできた。手にはいつもの電卓と予算を書き込んだノート。すでに半泣き状態だ。
「天音先輩! 会長ってば酷いんです!」
可愛いお顔が涙で台無しだ。私はよしよしと頭を撫でてやって、ともかく落ち着くように座らせた。
今年は粒よりと評判の1年生の中でもダントツの人気を誇る瑞樹が駆け込んできたのだから、教室の外はみるみるうちにギャラリーで黒だかりになる。私はちょっと苦々しく思いながら、瑞樹にわけを聞いてみた。
「もう、予算いっぱいいっぱいなんです!」
いきなり切り出す瑞樹をなだめつつ詳細を聞くと、どうやら雪紀が、他の3人のベルバラの衣装を見て羨ましくなってしまったらしく、自分の分もちゃっかり注文したというのだ。
「そのくらいで泣くこと…。」
「そのくらいじゃありません! ケータリングのデザート類だって足が出るのに、さらに高級食器や家具までレンタルして、もう2度と使わないような小道具類まで特注するんですよ!
ぼったくりだなと思うけど、しょうがないからケータリングの代金の2倍で完売するとして計算して、それでやっとかつかつなのに、会長だけ2着分も予算、逆さに振っても出ませんよう!」
ついにうわあんと派手に泣いてしまう。まだ瑞樹は雪紀がたくらんでいるゴールドメニューの存在を知らないのだな。はっきりいってあのサービスを敢行すれば、おそらく来年度の予算まで軽くクリアするくらい稼ぐのもわけないと思うが、やっぱりあんなはしたない真似は、私にも、可愛い子犬ちゃんたちにもさせられやしないのだ。うーん、どうしよう。
煮詰まった私は、放課後になってもつい生徒会室に行くのが億劫で、ほんの少し図書館に逃避することにした。
窓際の指定席に座ると、静かな視線が私を取り巻いているのがわかる。
落ち葉の舞い散る窓際に佇む、物憂げな表情の私…。うん、垣間見たくなる気分もわかるな。
思わず演出過剰にため息などついていると、おずおずと立ちすくむ人影が。
そちらに視線をやると、1年生が数人、緊張の面持ちで立っている。そのうちの一人が仲間に押し出されるようにして進み出た。
「あ…っ、あの…っ、生徒会役員の皆さんで、今年の学園祭は素晴らしい出店をされると聞きましたっ。」
驚くには値しない。極秘だといいながら、雪紀自ら振れ回っているのはとっくに知っている。
「それであのっ、ベルバラをおやりになると聞いて、ぼっ、僕に何かお手伝いできればって…、思ったんですけど…っ。」
感極まったのだろうか。最後の方は涙声だ。
「僕のっ、おばあ様がっ、昔から宝塚の後援会みたいなのをやっていてっ、うちには資料がごまんとあるんですっ。とりあえずこれっ、持って参りましたっ!」
よく見ると、彼は頬を染めて息を乱している。もしかして自宅までその資料とやらを取りに戻ってくれたのだろうか。きゅうにその平凡な彼が愛しくなって、私はにっこりと微笑みかけた。それだけで、彼は爆発しそうなほどに頬を染める。
「ありがとう。それじゃちょっと拝見させてもらいましょうか。」
本当はさして興味はなかったけれども…宝塚なら、慎吾のアレをどうにかして欲しいだけで、後の3人はどうでもよかったから…とにかくそのパンフレットを見てみると。
驚くべき発見が!
「これは…なに?」
「はっ、はいっ、レヴューとか言うもののようですっ!」
宝塚の有名な大階段。これは私も知っている。だが、その頂上にたったオスカルの格好は…尻に巨大な孔雀の羽のようなものがついているではないか!
真っ白な大車輪みたいなそれは、恐ろしいほど目立って、美しいというより珍奇だった。私はきゅうにその1年生を抱きしめたくなった。
「ありがとう! とっても参考になりました!」
思わず硬く両手を握ると、1年生の瞳がくるりと反転した。感激のあまり、失神してしまったようだ。
そう、私たちはなにも、ほっぺにちゅっだの、お膝におすわりだのしなくても、愛らしい笑顔と握手くらいで十二分に稼げる!
ついては雪紀には、宣伝部長になってもらおう。当然、わがままで作ったオスカルの服装に、あの尻羽根をつけて、校内中を練り歩いてもらおう。ついでにサンドイッチマンもやってもらおうか。
プライドが高くて見栄っ張りな雪紀を懲らしめるには、これ以上の妙案はないな!
私は上機嫌で図書館を後にした。
ところで…オスカルの服って下は白タイツなのだな…。
慎吾のあれは…猥褻物陳列罪にならないだろうか…。