| 2003年 11月 18日(火) |
勝利!
休み時間に、咲良が悄然として私を訪れた。どうも雪紀への泣き落としがうまくいかないらしい。
「身体を使ってでも言いくるめるのは…いいんですけど…。」
咲良は頬を染めて私を上目遣いに見上げる。
「その…、生徒会長、激しいんで、…出来ればそういうのは週末でないと俺がもたないってゆーか…。」
……………。
ふーん、そうか、雪紀はそんなにも激しいのか…。
…これは少し慎吾の尻を叩かないといけないな…。
そんなことを考えている間に、咲良はこそこそと逃げるように去っていく。
後は私に何とかしろと言うことか…。
生徒会室に行くと、いつもより人数が多い。どうやらティー研がやってきて、お茶を入れているようだ。
味見と称して、雪紀辺りがお茶入れにこき使っているのに違いない。私の目の前にも、何種類かのお茶が並んだ。さすが日がな一日お茶の研究ばかりをしている諸君が入れてくれる紅茶は美味しい。
「天音、お茶菓子はなにがええ?」
慎吾が嬉々としてサンプルを持ってきた。ケータリングの注文の絞込みをしているらしい。
さまざまな洋菓子に混じって、月餅だの、胡麻団子だのの中華菓子があるのは、紅茶の中に混じっていたウーロン茶への応対だろうか。
とはいえ、私もジャスミンティーなどは嫌いではない。良いジャスミンティーは本当に香りもよくて美味しいものだ。
私は慎吾のお勧めのフルーツタルトをもらうとゆっくりお茶を頂いた。美味しいお菓子に美味しい紅茶。扮装なしに考えても順当な利益の出る商売になるだろう。
だが、それだけでは納得いかない。私たちがゴスロリを着てまで更なる利益を上げて、雪紀一人が楽しい目を見るのでは、まったく不公平ではないか。
そう思っていると、なにやら雪紀はカタログを睨んでいる。食器のカタログのようだ。
「食器類の追加注文はしなくていいかな。貴賓室のあの壁には、やっぱり高価な食器でないと映えないだろう。」
ん? 今貴賓室と言ったか?
そういえば、肝心な会場について一言も聞いていないが…。
「雪紀…、まさかと思いますが、この喫茶の会場って…。」
「もちろん我が校で一番の部屋の、貴賓室を使おうと思っているよ。」
「……………雪紀、貴賓室は使えないぞ。」
直哉がいつもよりさらに渋い顔で言う。
「学園祭は外部の客も来るし、隣接の女子部の教師なんかも視察に来るから、貴賓室が空くわけがないじゃないか。」
し────ん。水を打ったとはこういう事を言うのだな。
ややあって重い音がする。雪紀の手から分厚いカタログが零れた音だ。
「仕方ない。ここを使いましょう。」
私はぐるりを見渡しながら言った。
「もうめぼしい所はふさがってしまっているし、後あいているのは一般の教室ぐらいですよ。
お茶を入れたりお菓子を出したりすることを考えたら、水周りは必須ですから、ここは都合がいいですしね。」
「し、しかし…。」
そう、この部屋には夥しい物があるのだ。そしてその大半が、雪紀の私物だったりする。
「今から私の取り巻きに声をかけてきます。彼らなら二つ返事で片付けを手伝ってくれますよ。
それとも、あなたを神様のように信奉しているかわいい生徒君たちに、あなたの散らかした物を見せますか?」
勝った。私はひそかにこぶしを握る。雪紀はすっかり自分の計算が狂ったことにショックを隠せないようすで呆然としている。
「私が腰を折って彼らにお願いするんですから、当然あなたも私のお願いを聞いてくれますよね♪」
私は視線を雪紀の後方に送った。そこには件の尻羽根が置いてある。雪紀ががっくりとうなだれ、咲良と瑞樹が私を尊敬の眼差しで見ている。
子犬ちゃんたち、駆け引きとはこういうものだよ。
私は30キロあると言うその尻羽根を、慎吾が雪紀に背負わせているのを横目で見ながら生徒会室を出た。
いつもはちょっと鬱陶しい取り巻きクンたちに頑張ってもらわないと。達成感に私の胸は弾む。
明日には衣装が出来上がってくる。まだまだ私は手を抜くわけには行かないのだ。