2003年 11月 22日(土)

学園祭1日目

いよいよ学園祭当日!

普段事務的な感じが否めない生徒会室が、見事に生まれ変わっている。
隅々まで磨き上げられ、アンティークなテーブルセットが数組、私の取り巻きの計らいで、カーテンすらたっぷりのフリルとレースに溢れる王宮の一室のような装い。
昨日の雪紀の宣伝が功を奏したか、開店と同時に訪問客が訪れる。
入室した客たちは一様に息を飲んだ。それはそうだろう。開店当初だけでもと、われわれが勢ぞろいして出迎えてやっているのだから。
オスカルの姿は一度は目にしたのだろう。だが、やたら本番に強い彼らだ。昨日とは発するオーラまで違う。オスカルの衣装は彼らの長い手足や引き締まった体躯を強調し、雪紀の軍服もその締まった色合いでともすると浮かれがちなオスカル集団をきりりと引き締めるのに大いに役立っている。
そして私たちゴスロリ組だ。自分で言うのもなんだが、本当に可愛く仕上がった。
瑞樹と咲良のコンセプトは双子の天使だそうだ。僅かずつ違うミニのワンピースを纏っている。大きく膨らんだスカートの下からは幾重にもかさねたパニエとかぼちゃパンツが覗き、膨らんだ袖と胸元の大きなレースのリボンが可愛らしさをかもし出している。ヅラもお揃いの、顎の長さの縦ロール。瑞樹が黒、咲良がブラウン。背格好が似た二人が並ぶと、本当に双子のお人形みたいだ。
祥太郎先生は、ビスチェで硬く絞り上げたノースリーブの上半身に、ふわりと広がるスカート。咲良や瑞樹ほどにボリュームはないが、いずれもふんだんにリボンとフリルがあしらわれている。それに肘から先がレースのブラウスを合わせ、肩にはやはりふわりとしたボレロを纏っている。足元は脛の半ばまで隠れる編み上げブーツ。あれは学園祭が終わった暁には、先生の私物になって通勤だかなんだかに活躍するらしい。ヅラは背中まで覆う黒髪のストレート。これまたフランス人形のように愛らしい。
そして私は、襟高のノースリーブのワンピース。腕がほとんど隠れる、皮の長手袋がついている。同じくふわりと広がったスカートは幾重にもかさなった薄い生地で、裾の方は複雑なラインを描き、短いところは膝上20センチくらいまで露出するが、長いところは脛の半ばまで隠れる長さになっている。私が歩くたびスカートの裾が翻って、自慢の細くて長い足が見え隠れする様が我ながら気に入っている。ヅラはプラチナブロンドのウエーブヘア。頭の上に飾った幅広のレースのリボンが、耳の上で大きなリボンを作っている。
どれも本当に似合っている。ゴスロリ同好会の意見が取り入れられたというが、私の分だけなんとなくボンテージくさいのがほんの少しだけ気になるが。

「ぜ、ぜ、絶対来るなって言ったのに〜〜〜!!」
開店して少しすると、祥太郎先生の頓狂な声が響き渡った。みると祥太郎先生の前に、家族らしい男女が立っている。いかにも理想の夫婦と言った出で立ちの中年の男女と、レースクイーンみたいな女とロリータみたいな少女だ。中年女とロリータが示し合わせたように胸の前で手を組んだ。
「「祥ちゃん…、可愛い〜!」」
「か、可愛い言うなー!」
どうやら祥太郎先生の身内だ。祥太郎先生は、可愛そうに茹蛸みたいに真っ赤だ。中年男がいきなりがばりと祥太郎先生を抱きすくめた。
「おおおー! まるで往年の紫さんを見ているようだ! 紫さん〜!」
「わああ、宗一郎さん、ドレスが皺になるってばー!」
…祥太郎先生、結構余裕じゃないか。
「祥ちゃん! ちょっとこっちに来なさい!」
レースクイーンが祥太郎先生の腕を掴んだ。ものすごい勢いで出て行ってしまう。…売り子さんには手を触れないで欲しいのに…。

15分後、出て行ったのとおんなじ勢いで祥太郎先生とレースクイーンが戻ってきた。なぜか出入り口のところでもめている。力負けした祥太郎先生が部屋にねじ込まれると、小さな歓声が上がった。
祥太郎先生が可愛いのだ。いや、もとから可愛かったのだが、その顔立ちが元とは違っているのだ。
顔の陰影が深くなって、唇の色が零れんばかりに赤く潤い、睫も…確実に増えている。マスカラ…だけではない。付け睫もついているな。
「…………葵です。メイクアップアーチストをやっておりますの。」
気が付くと、レースクイーンが雪紀を捕まえてなにやら話している。どうやら祥太郎先生に施したメイクについて話しているようだ。身体をくねらせて話すレースクイーンに、雪紀は大きな動作で何度も頷いた。
「仰るとおりです。せっかく着飾ったのですから、それなりに装わねば。祥太郎先生も一段と美しくなられて…。」
「まあ、では私の差し出がましいメイクを許していただけるんですのね。」
「もちろんです。他の連中にもしていただきたいくらいだ。いやあ、お時間がないというのは実に惜しい。」
…雪紀、口が軽すぎる気がするぞ…。
「今のお言葉、確かにお聞きしましたわ。」
心なし、レースクイーンの目がキラリと光った。
「私、明日なら1日オフですの。お手伝いをして差し上げられますわ。他の可愛いゴスロリのお嬢さんがたと、オスカルの皆さんと、…あなたも。」
「…は?」
…ほら見ろ。口は災いの元だというのだ。雪紀のお調子ものめ!
「立った今、着飾ったのだから装わねば、他の連中にもして欲しいと仰いましたわよね! 確かにお聞きしましたわ!」
「…はあ。」
「私にしましても、こんな綺麗な男の子の集団、芸能界でも珍しいくらいですから、とても勉強になりますわ。快諾して頂いて、本当にありがたく存じます。」
「………はい。」

祥太郎先生のご家族は、満足しきった面持ちでお帰りになられた。明日はあの強烈なお姉さんが開店前から来て、全員分の渾身のメイクを担当してくださると言う。
あんまり…美しくなるのにやぶさかでない私でさえ、そこまで凝ったつくりにされるのはどうも…。まったく雪紀のお調子ものめ…。
「もうっ! うちの姉さん凝り性なんだから! 気安くそんな依頼受けちゃダメなのにっ!」
祥太郎先生、そういうことは早く言って欲しい…。
しかし、完璧にメイクされた先生に潤む瞳でなじられても可愛いばっかりで、直哉をはじめとする誰も、深く突っ込めないのだった。

そんなこんなで無事に1日が終了するかと思われた。途中で瑞樹とカノンが脱走する騒ぎがあったが。
実は今日の山場は、1日目の閉店後にあった。

ようやくずっと立てこんでいた客を捌いて閉店し、みんなで片付けをしていると、掃除をふけていた慎吾が楽しそうに帰ってきた。
「天音〜! ええもん見つけたで〜!」
手に何かひらひらするものを持っている。みんなの注目をものともせずに、慎吾は真っ直ぐに私のところへやってきた。
「これこれ、明日の後夜祭でおもろい出し物があるんや。俺と天音で1等2等取って、ワンツーフィニッシュ飾るで!」
慎吾が持ってきた紙には、美少女コンテストの応募要綱が書いてある。しかもこれは半券だ。…ということは、…もしかしてエントリー済み?
「慎吾…これ…。」
「心配すんなや。ちゃあんと年齢性別不問って書いてあるで! 祥太郎センセも出場できるで! 俺もうみんなの分出したった。気ィ利くやろ!」
…なんという…余計なことを…!
この衣装だけでも十二分に目立つと言うのに、さらにばっちりメイクされて、その上美少女コンテストに出場だと!
………なんかもう、脱力しすぎて燃えてきたぞ。
こうなったら、絶対優勝だ! 女子部も合わせた後夜祭でも、全校一の美少女の名をほしいままにしてくれる!
さすがに慎吾が2位になれるとは考えづらいのだが。