2003年 12月 20日(土)

愕然!

私は今、大変忙しい。

振り返れば、昨日の金曜日、テストの成績発表があった日だ。
私は野暮用に足を取られて、生徒会室に出向くのが少し遅れた。野暮用というのは他でもない、慎吾のための裏工作だ。
自分でああもはっきり出来なかったと言うのだから、本当に歴史のテストはダメだったのだろう。だが、私は、どうしてもこの22,23,24日の北海道旅行に慎吾と行きたいのだ。
だから小細工を弄して、歴史の教師を丸め込んだ。簡単なことだ。ちょっとだけ鼻薬を…この場合は、父の伝の歌舞伎講演のチケットだったが…ちらつかせて、追試をレポート提出に変えさせたのだ。
もちろん私の巧みな話術にはぐらかされて、教師は自分が賄賂を受け取ったことなど思いもよらないだろう。私の歴史の点数は,雪紀や直哉をも凌ぐ。そんな生徒から賄賂などあるわけがないのだ。

肩の荷を下ろした気分で生徒会室に行くと、大きな身体を小さく縮こめた慎吾の周りを、生徒会の面々、祥太郎先生までもが取り囲んでいる。
「天音〜。」
慎吾は私の顔を見ると、情けない声を出した。そして指をVの字に突き立てる。
なんだ、私が奔走するまでもない、慎吾の成績はまずまずだったのか。私がほっとして近づくと、慎吾はさらに肩を竦めた。

「どうしたんです? Vサインがでるようじゃ、成績は良かったんでしょう?」
「Vじゃないねん、赤点………二つやねん。」
「ふた…。」

「まあまあ、国見くん、彼はずいぶん頑張ったんだよ。ほんと、惜しい所だったんだから。」
なんだかのほほんと祥太郎先生がフォローを入れる。だが私は愕然としていた。あんなに私が指導してやったのに、歴史以外に何を赤点取ったというのだ!

「見せなさい! なにが赤点だったんです!」
「歴史と…リーダー…。」
「リーダーって…、答え合わせしたでしょう! 一つしか分からないところがなかったって言っていたじゃありませんか!」
「そ、そやねんけど、あんな…。」

私は慎吾の手にした解答用紙をひったくった。それを見たとたんに、慎吾の敗因がわかった。
几帳面に区切られた解答欄。これは殆ど選択問題だったのだ。慎吾の解答用紙は最初の3つだけ丸で、後は全滅である。

「まさかと思いますけど、分からなかった4問目を…。」
「…飛ばすの忘れて、そのままずーっと記入してもうた…。てへ。」
「何がてへ。ですか!」

どっかん! 私の珍しい大声に、全員が1歩引いた。リーダーの教師は追試が大好きな奴なのだ! しかも合格するまで何度でも受けさせるという…。旅行に間に合わないではないか!

「しょーがないだろう。基本的に答えは全部合ってんだ。誉めてやれよ、天音。」
雪紀がニヤニヤしながら言う。咲良も瑞樹も平静な顔だから、きっと成績は良かったのに違いない。だからあんなに太平楽な顔なのだな!
許せない! もともと慎吾を追試にさせないためにみんなで画策したというのに、私一人が貧乏くじだなんて!

「…決めました。もし慎吾の追試が北海道旅行に間に合わなかったら、私は祥太郎先生と一緒に北海道へ行きます。」
「えっ、僕? なんで?」
きょとんとする祥太郎先生の腕を、私はわしっと掴んだ。直哉があからさまに慌てている。
「僕、だって熱海旅行にチケットあるよ? おんなじ日程だよ?」
「北海道の方かいいでしょう? それとも先生は、私に一人で北海道へ行けと仰いますか? 教師として、そんなこと許されますか?」
「え? あの、あの…。」

おたおたする先生をにっこり見下ろして、私は直哉と雪紀を睨む。

「先生のチケットは、雪紀と直哉に使ってもらいましょう。」

うっ…。二人が息を飲む。それはそうだろう。大男が二人で仲睦まじく、秘宝館なんか見に行きたいはずもない。

「ちゃんと行った証拠に、懇切丁寧なレポートを提出してもらいましょうよ。いいでしょう、祥太郎先生。」
「そっかー、二人なら、浮世絵のレポートも面白い物が書けそうだね〜。」

二人がたじたじとあとずさる。大男二人が腰を引く様は、見ていてなかなか気持ちがいい。

「それが嫌なら…慎吾の再教育…協力していただけますよね…。」
「ええっ! 結局それかいな!」
慎吾が悲鳴みたいな声を上げる。だが私は容赦しない。こうなったら背に腹は変えられないのだ。


こうしてみっちり慎吾を鍛えなおすこと丸一日。やっと何とか目鼻がついてきた。
明日はいよいよリーダーの追試。もう後がない!