2003年 9月 26日(金)

夕焼け

いよいよ明日は体育祭だ。
この2〜3日ぐずついて心配されていた天気も、午後には綺麗に晴れ上がった。瑞樹と咲良が嬉しそうにはしゃいでいる。
体育祭といえば、まさしく慎吾の為にあるような祭り。わが白鳳学園には、体育祭すら行えるような立派な体育館もあるが、やはり屋外でやる体育祭は格別だろう。何より、慎吾には日光がよく似合う。
しかし私はいささか淋しい。慎吾が体育祭の準備にかかりきりで、私と一緒にいる時間が少ないのだ。
でも、我慢しよう。体育部長である慎吾にとって、体育祭は大一番の腕の見せ所だし、何より生き生きした慎吾の表情を見られるのは嬉しい。
今日も放課後遅くまで、咲良と瑞樹、それにたくさんの下級生たちを従えて、グラウンドの準備に奔走する彼を見ることができた。
生徒会室の窓からそっと見つめる私にも、慎吾の額に光った汗が窺える。水を得た魚という言葉がぴったりだな。
11月に行われる文化祭には、きっと私が慎吾にかまってやれなくなるのだろう。それでも彼は広い心で私を見守ってくれるに違いない。
だから私は帰途に付くことにした。張り切っている慎吾に水を差すのは、私の趣味ではない。
いつも校門まで慎吾と一緒に帰る僅かな道のりが、一人だとこんなにも長い。私はのろのろと足を進めた。
校門を出て振り返る。グラウンドにはまだ学生たちが走り回っている。そっとため息をつき、もう振り向くまいと前を向いたとき。
長い影が夕日を遮った。
驚いて顔を上げた私の視界に、頬を紅潮させた慎吾の顔が飛び込んできた。
私がカーテンの陰に隠れるようにして、グラウンドを窺っていたのも、慎吾にはお見通しだったらしい。
慎吾は弾む息を抑えるようにして、にっこり笑った。
「窓に俺のべっぴんさんが見えなくなったから、送りに来たんや。ほったらかしにしとって堪忍な。」
慎吾を待っているのも、先に帰るのも、私の勝手なのに。彼には一言も言ってないのに。
あったかい気持ちが、私の胸を満たしていく。
ああ、私はこの人を好きでよかった。本当にこの人だけが好き。
そう思ったら、あんなに戸惑って言えないでいた「好き」の一言が、嘘みたいにするりと唇から零れだした。
慎吾は、私の告白にも、少し目を見開いただけ。まるで当然のようににっこりと頷いた。
少し悔しくて、頬が火照る。心なし、慎吾の頬の赤みも増した。いや。
これはきっと、この見事な夕焼けの赤のせいだろう。