| 2004年 1月 13日(火) |
ピンチ!
2月の末、学年末テストの前に、また裏レセプションがある。
今度は「輝け!白鳳抱かれたい男ナンバーワン!」だ。
そろそろ実行委員の選出が行われる。
去年は1位が卒業していった先輩だったが、2位3位に雪紀と直哉が食い込んでいた。
1年生だったくせにそれも生意気だが、何より私の慎吾を上回ることが許せない。
そんな栄誉を受けたくせに、直哉はあんまりこのレセプションには乗り気でない。
「俺が抱きたいのはたった一人だ!」何をすかしたことを…。
雪紀みたいにふんぞり返って鼻高々にしていれば、それはそれで許せるのに。
あんまり腹が立ったから、意趣返しのつもりで口に出してみた。
「モンゴルくん。」と。
だが、蒙古=モンゴルと言う、私の遠まわしな引っ掛けはついぞ直哉には通じず、彼は眉間に皺を寄せて私を訝しげな目で見るばかり。
他の面々も、間抜けなことに慎吾でさえ分からないようだ。
たった一人顔色を変えたのは祥太郎先生だった。
「国見くん、桜庭くん、ちょっと。」
手招きされて、私と慎吾は仕方なく先生について行った。
人気のない廊下の端で、先生は立ち止まると、小さな身体で精一杯胸を張って私たちを見上げた。
「さっきのあれは…どういうこと?」
「あれ? あれってなんですか?」
慎吾はけろりとした顔で問い返す。まずいな。
「さっきのモンゴルって…、直哉くんの蒙古斑のことでしょ? そうじゃないの?」
「ああ、せやった! 蒙古…モンゴル! なるほど!」
慎吾は授業を思い出したのか、それとも直哉の蒙古斑を想像したのか、高らかに笑った。馬鹿! 雰囲気を読めって。
「笑わないで!」
ぴしゃりと祥太郎先生は言い放つ。決して高くはないが、凛と響く声。
「僕は…僕は、君が本当に直哉くんのことを心配していると思うから、誰にも言わないって言うから教えたのに。」
先生の白く握り締めたこぶしが震えている。
先生を怒らせた慎吾は、馬鹿みたいに口をあけたまま突っ立っている。
いつもにこにこしている祥太郎先生が、こんなふうに怒るなんて、慎吾の予想図にはなかったんだな。
「僕だって、直哉くんと約束したんだ。ナイショにしておくって。だけど、直哉くんが悩んでるふうだからって、君が言うから…。
親しいお友達なら、彼と親身になって話してあげられるかと思ったから…僕なんかより、直哉くんにはいいかと思ったから…。
それを、そんなふうに、身体的欠陥をあげつらうみたいにからかって…それってイジメじゃないの?」
身体的欠陥って…そんな大袈裟な…。
祥太郎先生は不意に下唇を噛んだ。少し上を向いた鼻の頭が見る見る赤くなる。
大きな目がじんわりと滲んで、瞬きもしないのに、パタパタパタッと大粒の涙が溢れた。
う…っ。
可愛い…っ。
うっかり先生の可愛い顔に見とれていた私ははっと我に返った。
しまった! 慎吾のことを忘れていた!
慎吾は無類の可愛い物好きだ。
だから咲良や瑞樹は慎吾の大のお気に入りだし、私に買ってくれた慎之介さんも、殆ど慎吾の抱き枕になっている。
その慎吾にこんな可愛い祥太郎先生を見せるのは…まずい!
しかし…遅かった。
「あああ、泣かんといてぇな。俺が悪かった! すんません! 二度としません!」
平身低頭である。祥太郎先生の前に這いつくばらんばかりである。
そんなことは私の前でだけすればいいのに…!
それに、そんないいネタを自ら封印するような約束をするなんて…。
ものすごく不満だ!
しかし、慎吾の米搗きバッタみたいな態度は先生の涙が収まってもしばらくやまなかった。
私もさすがにこれ以上先生に切ない顔をさせるのははばかられ、結局あのネタは封印になった。とにかく、しばらくの間は。
そして、生徒会室に戻った私たちを待っていたのは、咲良と瑞樹の
「天音センパイが祥太郎先生を泣かせた〜!」という叫び声だった。
どうやら、こっそりついて来て様子を伺っていたらしい。が。
………待て。
なぜ私限定なのだ?
しかもすでに校内に広まっている?
……………なぜ?