| 2004年 10月 1日(金) |
知ってるよ
「ねぇ、一体どういう事なの?」
直哉に連れて来られた祥太郎先生が、生徒会室のソファーに腰を下ろして小首を傾げる。
出た・・・いつもの、ポーズだ。
「あのね、分かってる?僕もう少ししたら朝の職員会議なんだけど。出ないと、煩いんだよね・・・生徒指導の先生達って」
腕に嵌めた時計を気にしながら祥太郎先生は小さなため息を付いた。
おや?今・・・ワイシャツの袖から見えたものは?
一瞬の事であまり良く見えなかったけれど、正太郎先生の腕時計が変わっている。誰の影響かは知らないが、正太郎先生は時計だけは良いものを好むのだ。
つい先ごろまではおじいさまの形見、と言って・・・かなり古い、戦前の腕時計を愛用していた。
何度も、何度も皮のベルトは替えられたであろうその時計は、とても大切に扱われていたのが一目で分かるような一品だ。派手さはないが、実用的で時刻に寸分の狂いもない。
戦前のものにしては、かなり高価なものだったに違いない。私の家にも古い物が沢山あるので、そこいらの高校生とは見る目が違うのだ。
なのに。その時計をどうして変えてしまったのだろうか。
ふと、祥太郎先生の隣に当たり前のような顔をして座っている、直哉の時計を見た。
・・・・・・ふ〜ん、なるほど。
祥太郎先生のしている時計に、見覚えがあった筈です。あれは直哉がしていた時計ではないですか。
指輪ならぬ、時計のプレゼント???何だか、淫靡な響きだな。
と、時計一つで暴走していた私の妄想を瑞樹の元気な声がかき消した。
「戻りました!見てください、これですよ!」
はぁはぁと肩で息をしながら・・・・・手に持った携帯を、私達に差し出す。
「ちゃんと写っているでしょう?」
「僕達じゃ、学校まで分からなかったから・・・写真にとってきたんです」
瑞樹の言葉の足りない所を白雪がさりげなく、フォローしている。
「こんな制服・・・この辺じゃ、見たことないですよ・・・俺」
その言葉に私達は頷いた。
ベージュのタータンチェックのプリーツスカートに、同系色のカーディガン。中に着ているシャツは、取り立てて・・・色は決まっていないのだろうか。
襟から下がっているリボンタイも、誰一人同じ色ではない。
あ、でも・・・ソックスは4人とも同じ紺色か。
まるでどこかのブランドが、作った制服のようだ。
どうせならば、もっとその学校に相応しいオリジナリティーを出せばいいのに。そう、私達の白鳳のように。
こんなどこにでもいる、一山100円のジャガイモみたいな小娘達が慎吾に好意を抱くなんて・・・許せない行為のように思えてきた。
いや・・・今はそんな事を思って、怒りの炎を燃やしている時ではない。
「雪紀や直哉も、知らないんですか?」
一応、生徒会の中でも一番の遊び人がこの二人だ。もしかしたら知っているかも、と思い聞いてみた。
「知らないぞ」
「おっ、俺も知らないっ」
平然と答える雪紀に対して、どうしてか直哉が慌てている気がする。
ちらちらと隣を気にしている辺り、祥太郎先生の機嫌を損ねるのが恐いのか。
しかし、当の祥太郎先生はそんなことは全く気にも留めていなかったようだ。
「ねぇ、その写真。僕にも見せてよ」
そう言って手を伸ばして、瑞樹から携帯を受け取った。
しばし無言で、画面を見つめていた祥太郎先生が口を開いた。
「・・・・・この子達って、凄いねぇ〜?」
まったく場にそぐわない、間延びした声だった。
「翔先生?」
「あ、ごめん。だってね〜、この子達の学校・・・白鳳からかなり遠いんだよ?なのにさ、こんな時間からわざわざ寮の前で待ってるなんて、物凄く早起きしたんだね!」
「いや・・・それは、違うと思いますよ・・・?」
的外れな祥太郎先生の言葉に、直哉の体が少し・・・ソファーにめり込んだ気がする。
私もその意見に同意する。
先生、早起きしたんじゃないんです。夜中から、ずっと起きていたんですよ?小娘達は。
「でも先生。何で、学校が遠いとわかるんです」
おや、流石は会長。いいところに気が付いた。
「え?だって僕、この子達の学校知ってるもん」
「・・・・・・どうして」
「ん〜、だって。ここ、僕が教育実習でいった学校だし。あ、ちょっと待っててね?今すぐに、向こうの学校の生活指導の先生に電話してあげるから」
そう言って生徒会室の隅に移動した祥太郎先生は内ポケットから携帯電話を取り出すと、いそいそとダイヤルし始めた。
心なしかその顔が笑顔に見えるのは、どうしてだろう?
「なんか、ドキドキするねぇ〜。こういうのって!僕、本当の先生やってるみたい!」
電話が繋がるまでの間、そんな事を仰って下さる。
でも、先生・・・・・。
あなたはとっくに、我が白鳳の教師なのでは?
こんなぽややんに惚れている直哉が少し、哀れになってきた。そして、こんなぽややんに大好きな兄を取られた隼人は・・・もっと、可哀想かもしれない。
そう思いながら、私は硬直している兄弟を見た。