| 2004年 10月 10日(日) |
厄介な・・・・
昨日の台風は夜半過ぎには去ったが、まだどんよりとした雲が空にかかっている。
そんなうす曇の空を見上げながら、私は昨日の瑞樹の姿が脳裏に浮かんだ。
しょんぼりとかたを落とし、去っていく瑞樹はいつもにもまして小さく、寒そうに見えた。
「風邪をひいていなければいいのですが・・・・・」
気になってしょうがない私は、携帯を取り出すと素早く瑞樹の番号を呼び出した。
数回のコールの後、電話から瑞樹の覇気の無い声が聞こえてきた。
「瑞樹?元気が無いようですけど・・・・風邪でもひいたんですか?」
『天音先輩・・・・いえ・・・風邪はひいてないです、大丈夫ですよ』
私の言葉を聞いて瑞樹が無理に元気に振舞おうとしているような気がしてならない。
「でも、元気が無いようですが・・・・」
『ほんとに大丈夫ですって・・・・俺は元気です』
中々埒の明かない会話が続き、苛立った私は電話を切ると、瑞樹の家へと向かう事にする。
車で行けば瑞樹の家まではすぐだ。
私はお弟子さんに頼んで、瑞樹の家まで送ってもらう事にしたのだった。
「KANOU」と横文字で書かれた表札の脇のチャイムを押すが全く反応が無い。
私が首を傾げ考えあぐねいていると、家の中からドタドタと激しい音と共に、玄関のドアが勢いよく開いた。
「誰ですか〜」
ドアから顔を覗かせたのは元気の良い女の子。良く見ると瑞樹に似ている。
ああ、この子が柚葉ちゃんか・・・・と私は心の中で呟く。
「あの〜?どちら様?」
「こんにちは、私瑞樹くんの学校の友人で国見と申しますが・・・・」
瑞樹同様大きな目をクリクリさせて私を見上げていた柚葉ちゃんは、私が話している途中で「あっ」と大きな声を上げた。
「天音先輩って人でしょ?わーーーっ話で聞いてた通り超綺麗!!」
「はぁ・・・・どうも・・・・」
なんともいえない勢いに、私は先日の悪夢がよみがえる。
最近の女子高生はみんなこんなにかしましいのだろうか・・・・・
「あっ・・・ごめんなさい。どうぞ中へ」
私が顔を引きつらせていると、柚葉ちゃんは慌てた様子で中へ招き入れてくれた。
先日の彼女たちと違ってまともらしくて私はホッと息を吐き出し、柚葉ちゃんの後について行く。
「こっちです・・・・」
玄関からすぐの階段を上り、瑞樹の部屋まで案内してもらう。
2階の一番奥の部屋が瑞樹の部屋らしく、ドアには可愛らしいプレートがぶら下がっていて、私は思わず頬が緩んだ。
子犬らしいイメージの瑞樹にぴったりだと思うが、瑞樹はそれを言ったら嫌がるだろう。
「瑞樹〜お客さんだよぉ〜」
柚葉ちゃんはノックもせずにドアを勢い良く開けてズカズカと中に入っていってしまった。
「んも〜柚ちゃん・・・ノックくらいしろよ・・・っあ、天音先輩」
開け放たれた入り口で、どうしたもんかと佇んでる私を見て、瑞樹は慌ててベットから起き上がった。
ベットで寝ていたという事は、やっぱり風邪をひいてしまったんだろうか?
「んじゃ・・・あたしはお暇しますねぇ〜ごゆっくり〜」
私と入れ替わるように柚葉ちゃんはチワワを抱きしめて出て行った。
私が動物嫌いなのも筒抜けのようだ。
「天音先輩・・・どうしたんですか?」
「瑞樹の様子がおかしかったから気になって来てしまいましたが・・・・風邪ですか?」
「いいえ・・・その・・・・・」
私は瑞樹のベットサイドまで行くと、瑞樹の額に手を当ててみた。
「熱はないですね・・・・まだカノンの事がきになってるんですか?」
「違います・・・・っていうか、昨日の帰りなんですけど・・・」
瑞樹は観念したのか、昨日の帰りの出来事を語り始めた。
「昨日の帰り道、ボーっと歩いてて・・・・あの・・・・止まってる車にぶつかってしまって・・・・・転び方が悪かったみたいで足を捻挫しちゃったみたいなんです」
「止まってる車・・・・・捻挫・・・・」
私がどう応えていいか分からず固まっていると、瑞樹は真っ赤な顔で「すいません・・・心配かけて」と呟いた。
「ま、まあ、止まってる車で良かったですよ・・・ちゃんと気をつけないと・・・」
「はい、せっかく天音先輩が心配して電話くれたのに、俺恥ずかしくて・・・・言えなかったんです」
真っ赤な顔でしょんぼりと謝る瑞樹が可愛くて、私は頭を撫でて慰めてやる。
そうして2人で笑い合っていると、ドアがいきなり開いた。
「瑞樹!!怪我したって!?」
「カノン・・・・」
柚葉ちゃん同様、ノックもせずにカノンが部屋に真っ青な顔で飛び込んできた。
「あ・・・国見さん?何でここに?」
カノンは私の姿を見ると、少し不機嫌そうに眉を寄せた。
「天音先輩は心配してお見舞いに来てくれたんだよ」
「何で僕より先に来てるの?」
「何でって・・・・・その・・・・」
瑞樹が言葉を濁した事により、カノンの嫉妬の炎は燃え上がり、私を凄い目で睨みつけてきた。
このままでは誤解されてとばっちりを食いかねない。
私は瑞樹の代わりにことの顛末をカノンに説明してやった。
しかし・・・・カノンの眉間の皺は寄ったまま。
「国見さんがついていながら瑞樹が怪我をしたってことですね?」
「違うよ!俺が勝手に転んだだけだろ!!」
「瑞樹は黙ってて」
必死に私を庇おうとする瑞樹の態度は逆効果にしかならず、カノンの苛立ちを増したらしい。
「瑞樹の様子がおかしいのを分かってて、国見さんは瑞樹を一人で帰らせたんですか!?」
「その瑞樹を落ち込ませたのはカノンじゃないんですか?」
売られた喧嘩を買った私に、瑞樹がオロオロし始める。
「俺が一人で帰るって言い張ったんだから・・・天音先輩は悪くないんだぞ・・・・」
そう言っているうちに瑞樹の瞳から涙がポロポロ零れ落ちる。
「瑞樹っ!ごめん・・・泣かないで・・・・」
「カノンのバカっ・・・・っうく・・・」
泣きながら怒っている瑞樹を、カノンが必死になだめている姿を見て、私はため息を一つ吐く。
この私が痴話喧嘩に巻き込まれるなんて・・・
「では、私は帰りますが・・・・瑞樹、何か学校で不自由な事があったら言ってくださいね。私の責任も少しはありますから」
そういって私が立ち上がると、カノンがくるりと私を振り返った。
「結構です。瑞樹の足の代わりは僕がやりますから」
なんて独占欲の強い男だ・・・・カノンが王子様然としているのは瑞樹の前限定らしい。
痴話喧嘩には巻き込まれるわ、瑞樹の怪我を私の所為にするわ、なんだか気に入らない。
こうなったらカノンへの仕返しに、暫く瑞樹に付きまとってやろうかとも思ったが、瑞樹が可哀相か。
心の広い私は今回のことは目を瞑ってやることにして、加納家を後にした。
なんだか瑞樹とカノンのLOVEっぷりを見せられて、慎吾が恋しくなった。
今夜にでも慎吾に電話してみようか・・・・・・・