2004年 10月 14日(木)

嫌な予感。

 時間通りに迎えに来た佐伯氏の運転で、私達は一路遊園地へと向かった。
 毎度思うのだが・・・。
 佐伯氏は一体いつ、仕事をしているのだろうか。医者という職業はそんなに時間に融通が利くものだろうか。
 
 まぁ・・・勤務先は、雪紀の家の病院だからその辺り、上手くやっているのだろうが。
 18にもなる人間の「お守り」というのも、どうなのだろう。

 相変わらず、車中は賑やかだ。
 雪紀は咲良にべったりと引っ付いて、嬉しそうだし。
 直哉は直哉で、祥太郎先生が窓の外を指差して何か言う事に、いちいち反応を返している。
 瑞樹はカノンと仲良くお喋りだ。
 隼人位は・・・と思って見れば、以外や以外。白雪と機嫌よく喋っているではないか。

 私?
 私はさっきからひたすら煩い慎吾を無視する事に決め込んでいる。

 出発してから2時間ほどで、目的の遊園地が見えてきた。
 大きな駐車場に車を止めて、外へ出る。

 ・・・・・何だ?この寒さは!家を出たときはもっと暖かかったのに。
 いくら「山」が近いとはいえ、この気温差は詐欺のような気がする。
 薄着でなくて、本当に良かった。

 入り口付近の自動機で、それぞれがフリーパスなるものを購入。
 何故かその自動機には小型のカメラが設置してあった。どうやらそこを覗け、という事らしい。
 出てきたチケットを見て、カメラの意味が分かった。
 成る程、他人に転売できないようにパスには自分の顔写真が印刷されるのだな。
 


 「さぁ!行くで!!まずは、あれからや!」
 園内に入った途端、慎吾が叫んで大きな物体を指差した。
 「うん!早く行こうよ!僕、ここに来たことないから、凄く楽しみだったんだよ!」
 ああ、また。
 祥太郎先生がお子様化している。
 慎吾が指差した乗り物は・・・巨大な絶叫マシンだった。
 何も、他に可愛らしい乗り物が沢山あるのに、最初から飛ばさなくてもいいのでは・・・。

 「ねぇ、天音さん。天音さんも乗りますよね?」
 くいっ、と咲良が私の洋服の袖を引っ張った。
 「いえ、私は遠慮しておきますよ。どうぞ、貴方達だけで行ってらっしゃい」
 途端に咲良の表情が曇る。
 「乗らないんですか〜?俺、天音さんと一緒にあれに乗れるの、楽しみにしてたのに・・・・・」
 寂しそうに、呟く咲良。
 咲良のこの顔を見てしまっては・・・乗らないとはいえない。 
 「分かりました。では、一度だけ」
 そう答える以外にないではないか。

 大騒ぎをしている慎吾と共にその絶叫マシンへと近づいていく私の背後で、雪紀が咲良の頭を撫でていた事など全くもって気が付かなかった私が馬鹿だった。
 私がこの手の乗り物が大嫌いだという事を知っていて・・・雪紀が、咲良を焚き付けていたのだ。

 案内されるままに、私達はそのコースターに乗り込んだ。
 雪紀と咲良。
 直哉と祥太郎先生。
 隼人と白雪。
 そして私と慎吾。
 ・・・これで、全員乗りましたね?
 ん?瑞樹とカノンがいないぞ。
 
 「咲良、どうして瑞樹とカノンが・・・・・ひぃっ」
 乗ってない、と聞こうとした私の言葉は声にならなかった。
 何の前触れも無く、コースターがガタガタと動き始める。何だ、この高さは!?一体、何処まで上れば気が済むんだ?!

 間もなくして、頂点へと達したのかコースターの動きが止まった。
 駄目だ・・・下を向いてはいけない。落ちる、ここから落ちるに決まっている!

 ガタン、という振動と共にコースターが落下を始めた。
 
 「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ〜!」
 
 未だかつて体感した事のないGが私を襲う。コースターは下へ落ちたかと思えば、急上昇。
 右に揺れたかと思えば今度は左へ。
 そして極めつけは回転。
 
 内臓が、出てしまいそうだ。

 なのにどうしてお前達はそんなに楽しそうなんだ?!
 咲良!どうして両手を挙げて乗っていられるんだ!祥太郎先生も!!!

 「やっほー!これや、これ!このスリルがおもろいねんで〜!」

 慎吾!私の隣で大口を開けて喜ぶんじゃない!!!

 コースターが止まるまでのわずか数分。私は地獄を見た。