2004年 10月 15日(金)

恐怖の足音

 「もう・・・二度と、乗りませんからねっ!」
 コースターを降りた私は、そう叫んだ。
 こんなものにもう一度乗せられたら・・・今度こそ、昇天してしまいそうだ。

 「天音先輩、ご苦労様でした」
 よろよろと足元の覚束ない私に、一人だけ?難を逃れた瑞樹が冷たい飲み物を差し出してきた。

 私は無言でそれを奪い取る。

 「・・・何で、瑞樹だけ乗らなかったんですか?」
 恨めしそうにそう言えば、瑞樹はちょっと困ったような表情になる。
 「カノンが・・・」
 「カノンが?」
 「足を怪我して、治ったばかりなのに。あんなGのかかる乗り物に乗って、また足に負担がかかったらいけないからって・・・」
 まぁ、確かに。相当、私も踏ん張りましたが・・・。
 だからって頬を染めて言う事じゃないでしょう。
 

 ん?何だか、嫌な空気を感じるぞ。
 瑞樹と喋りながら歩いていたから、今、私は自分がどこを歩いているのかわからない。
 ・・・・・前方に、物凄い長蛇の列を発見。もしかして私達、ご一行は・・・あそこに向かっているのか?

 「――――――っ!」


 列の先、先頭が並んでいるアトラクションを見て私は絶句した。
 
 鬱蒼とした森をバックに、どこから持って来たんだ?と問いただしたくなるような古い病院が。
 どう考えても、この異様な雰囲気と空気は・・・お化け屋敷ではないですか?!
 いいいいい、嫌だ。嫌です。こんな所になんて、入りたくありません!

 私は誰にも気付かれないように、その場を離れようと試みた。

 「どうした、天音?トイレか?」
 「え・・、ええ。ちょっと冷えてしまったみたいです」
 一刻も早くここから立ち去ろうと思っていた私は、頷く。
 すると雪紀は、咲良の耳元に何かを囁いた。
 「天音さん〜。俺もトイレ行きたいです。一緒に、いきましょうね」
 にーっこり、にこにこ。咲良が天使の笑顔を私に向ける。だが、今この時ばかりはそれが「悪魔の微笑み」にしか見えない。

 雪紀の奴、雪紀の奴!
 私が、この手のアトラクションを苦手なのを知っていて、わざとやっているな!?

 


 「はい、天音先輩。これが先輩のチケットです。ここはフリーパスでは入場出来ませんから、これ失くさないで下さいね?」
 トイレから戻って来た私達は、瑞樹からチケットを手渡された。
 
 「大丈夫ですか?天音先輩・・・。顔色、悪いですよ?」
 チケットを凝視して固まっていた私に気が付いた白雪が、そう言って近づいてきた。
 何て、何て可愛らしいのでしょう、白雪は。
 今日の子犬たちは、本当に可愛くありません。でも、白雪は。白雪だけは私の味方なんですね?
 
 「さぁ、進みましょうか?もうそろそろ入場出来そうですから」
 無邪気な笑顔を私に向けて、白雪は私に手を差し伸べた。

 ガラガラと音を立てて、私の中の何かが壊れた。
 白雪・・・お前もか。

 どうあっても、私をここから逃がさないらしい。

 「どうしたの?具合でも悪いの?」
 今度こそ救いの神が!と思ったら祥太郎先生だった。この人は・・・この人も、信用ならないからな。
 「いえ、具合なんて悪くありません」
 強がってそう答えた私に、祥太郎先生は何を思ったのか。
 そうだ・・・と、私の耳元に口を寄せてくる。瞬間、直哉に物凄い目で睨まれた気がしたが・・・ざまあみろ。
 「大丈夫だよ、国見君。中に入ったら、慎吾君にくっついちゃえば平気でしょ?そうしたら怖くなんてないからね!」
 ね?と。
 
 駄目だ。本当に、もう逃げ出せない。
 見えない壁が私の周囲をぐるりと取り囲んでいる気がする。

 「おい、行くぞ」
 私達の先頭で並んでいた雪紀がそう告げた。
 病院の入り口は目の前だ。恐怖の足音が、聞こえてくる。