| 2004年 10月 17日(日) |
絶叫ティーカップ!
「もう私は嫌ですよ! あんなはしたない物には乗らないし、あんな不躾な建物には入りません!」
「えー! ここに来たら絶叫コースターとお化け屋敷を制覇せな、仕方ないやないの。」
すっかり臍を曲げた私がいくら怒っても、筋肉お馬鹿は学習能力に欠けているようだ。
「まだあれもあれも、あれも行かなならんのやで。今からそんなでどうするの?」
「嫌な物は嫌なんです! あなた一人でお行きなさい!」
大体、なんで咲良たちが中心になって執り行う学園祭の下調べに、私がこうして足を運ばなければならないのか!
そもそも、咲良はともかく、瑞樹は私と同様、こういう物が大嫌いだった筈なのに…。
そう思って思わず瑞樹を睨みつけると、少し肩を竦めた瑞樹がそっとやってきた。
「あの…、天音先輩、本当を言うとね、俺、さっきのアトラクション、入った早々リタイアしちゃったんです。」
「ええっ!」
「しーっ! 咲良には内緒にしておいてください!」
そういえば、瑞樹たちは一番手であの廃院に入っていったな。
最初からリタイアする気マンマンで入ったなら、あのように足取りも軽いはずだ。
しかも一番手だから…途中リタイアを誰にも気づかれずに済んだというわけか…。
「だって…、カノンが、そうしたほうがいいよって言ってくれたし…。」
…ああ、はいはい。どうせ私の彼氏はお馬鹿筋肉ですよ。
すっかりやさぐれてしまった私を綺麗に無視して、他の面々は元気だ。
「絶叫マシンとお化け屋敷が嫌なら、なんなら乗れるの?
1日フリーパスを買ったのに、これで終わりじゃもったいないよ。」
…祥太郎先生のおっしゃる通りですよ。しかもさっきのお化け屋敷はチケット外の出費だったし。
しかし私はもう、あんなばかげた乗り物は嫌過ぎる。そして、見まわしてみると、あたりはそんなばかげた乗り物ばかりだ。
…それにしても、祥太郎先生…なぜあなたが一番生き生きしているんです?
「そうですね…、もう私は見学だけで結構ですが…。」
「そんなこっちゃだめだよ! 若いんだから、もっと青春を謳歌しなきゃ!」
私の青春は別の所で謳歌するから、ここでは謳歌しなくていいんです!
「どうしてもとおっしゃるなら…、もっとおとなしめの物を…。
まあ、メリーゴーランドは恥ずかしすぎますが、ティーカップくらいなら…。」
「「「ティーカップ!」」」
祥太郎先生、バカ慎吾、咲良の3人が声を揃えた。なぜか同じように瞳まで煌かせている。
「じゃあ行こう、ティーカップ! ほら、あっちあっち!」
なんだろう…。なにかとてつもなく嫌な予感がするのはどうして…?
場所移動をして、私たちはティーカップにたどり着いた。
頭上を絶叫マシンのレールが走っている。そこをマシンが通りすぎるたび、轟音とともに魂切る悲鳴が降ってきて、私はそれだけで身の縮む思いだ。
ティーカップは余り人気がないらしく、列も出来ていない。周りは小さな子供のいる家族連れが多く、時折カップルも混じっている。
そこに押しかけた我々、およそ高校生の男ばかりは、異様に目を引くようだった。
ティーカップは18個。我々が二人ずつで乗ると、前に乗っていたお客さんとの兼ね合いで、少し足りない。
私は真っ先に乗りこんだ慎吾に引きずられるようにして、一つのカップに座った。
するとそこに、祥太郎先生が直哉を引っ張るようにして乗りこんできた。
「国見くん、桜庭くん、相席させて〜。満員になっちゃったんだ〜。
ほら、白雪君と隼人くんも、瑞樹君とカノンくんと一緒だよ。」
「そ、それは構いませんが…。」
私の返事を聞くまでもなく、祥太郎先生は乗り込んできて、ぎゅうぎゅう私をお尻で押した。
私は慎吾と祥太郎先生の間に挟まれるみたいにして窮屈に座った。
定員が何人か知らないが、健康な高校生と成人男子?が四人も乗るには、このティーカップは小さすぎる!
しかし、祥太郎先生はそんなことには知らん顔で座るなり、中央のテーブルをわしっと掴んだ。直哉が小さく嘆息する。
それを見た慎吾が、目を吊り上げる。自分もむきになってテーブルを…ちょっと待て、そのテーブルにどんな意味が…?
「でもさー、国見君、絶叫マシンが嫌いだなんて言いながらティーカップを選ぶなんて、なかなか通じゃないの?」
係員が来た。なにか嫌な予感を感じて冷や汗を流す私を逃がすまいとでもするかのように、扉を閉めてガチャンと施錠までしていく。
「まったくやな。こうなったらこの回り物の慎ちゃんが、ティーカップの真髄を見せたるで!」
「あっ、ズルイ、僕だって負けないんだから!」
「天音…、どこかにしっかり掴まってたほうがいいぞ。」
小さい声で直哉が囁く。それは一体…?
私は平和な乗り物としてティーカップを選んだのだ。どうしてそんなに張りきるのかな、このお子様二人は…?
そう思っていると、可愛らしい音楽が流れ初めて、ティーカップが緩やかに…え? 緩やかに回り…?
ひ、ひいいいいぃぃぃぃぃぃ……………!!!!
な、なんですかこのいきなりの高速回転は──────!!!
「うわ───! これこれ! ティーカップはこうでなくっちゃ!」
「おおっ! 祥太郎先生やるやないか! ようし今度はこっち回転や! それっ、どやっ!」
掴まるところなんかどこにもなくて、私は足を踏ん張った。
ティーカップは私の髪が全部地面と平行に流れるくらいの高速でギュンギュン回転している。
一体どうして…と思ったら………!!
祥太郎先生と慎吾が…夢中になって中央のテーブルを、まるでピザでもこねているかのように…回しているのだ!
「や…、やめ…、うぷ。」
コースターのある程度計算できる動きと、人力による不規則な動きでは、比較にならない。
平らな地面をただ回るだけと言うのが…こんなにきついものとは…!
しかも、ティーカップの土台自体ゆるゆると回転しているのだ。不快極まりない!
遠くに、他のメンバーが見える。咲良も…回して楽しんでいるのか?
しかし二人掛かりと一人では、パワーが違いすぎる。
こっちのティーカップは今にももげて天を飛んでいきそうだ。
そして…少し離れた所に見える、瑞樹たち…。
こっちを唖然とした顔で見つめている…。
そっちは全然回転していないんだね…。
ふふふ、そっちに混ぜてもらえば良かったよ…。うふふふ…。
「お、おい慎吾、祥先生、いい加減に…、天音が壊れて…おえ。」
ほーらね、白鳳の仁王だって酔ってるよ♪
「えーつまんない〜。でも僕もちょっと目が回っちゃったな。」
ちょっとで済むのですか…うふふ♪
ようやくなった終了の合図が、天使のベルのように聞こえた。
慎吾と祥太郎先生もそれなりに目が回っているようだが、その足のふらつきさえ楽しげにひょいひょいと降りていく。
私は…同じくヘロヘロになってしまった直哉に抱えられて、ようやく固い地面に降り立った。
回らない地面って…なんて素敵…。
もう帰りたい…と、切に思った。