2004年 10月 18日(月)

鬼のいぬ間に?

 「なぁ、本当にいいのか?俺、知らないぜ?絶対後から・・・怒るに決まってる・・・」
 
 「え〜、平気だよぅ。そんなに怒らないって〜。ねぇ、瑞樹?」
 
 「う〜ん・・・絶対に、とは言えないけど。確率から言って例え怒ったとしても最後にはこっちのいう事、聞いてくれるかな?」
 
 「ほら、隼人。瑞樹もこう言ってるんだしさ〜」
 
 「いや別に・・・いいけどよ。なんつーの?俺に火の粉さえ飛んでこなきゃいいっつーか」

 何やら生徒会室の中が騒がしい。
 珍しく引退した3年生は一人もおらず、咲良や瑞樹を始めとする新役員が4人だけ。
 その中でも白雪は何か特別に発言をする訳でもなく、真剣にノートに向かっていた。
 表紙には「議事録」とある。
 
 「あーっ、何やってんの?白雪!」
 
 「えっ・・・何って・・・会議の内容を書いているんですけど・・・?」
 真剣な顔で白雪は答える。その白雪の前で、咲良は指を一本横に振る。

 「駄目なんだよ、こんな事を書いたら。これはさ〜会議なんてもんじゃなくてただの雑談なんだから〜」
 
 「ただの雑談?」
 
 「そうそう。ねー瑞樹?」
 
 「うん、こんな内容書き留められちゃって、後から天音先輩に見付かったら大変だからね!」
 咲良と瑞樹は顔を見合わせて「きしししし」と笑った。


 「でもさぁ、天音さんって本当にああいう所苦手なんだね。慎吾さんはすっごく好きそうなのに!」
 週末に生徒会役員と元役員で行った学園祭の下見を思い出して咲良は上機嫌だ。
 
 「お化け屋敷なんてさ〜一人だけ、全然違う人みつけちゃったり〜」
 どうやら咲良はそれがアトラクションの仕込だと思い込んでいるらしいが、瑞樹と白雪の眉がぴくん、と動いた。
 いや、あれは。
 きっと誰が見ても見えるものではなかった筈だ。
 瑞樹などは皆を騙してリタイアした事を、ほんの少し悔やんでいたのだが・・・。
 天音の話を聞いてからは、カノンに誘われるがままにリタイアして良かった、と胸を撫で下ろした。

 

 「おい、会長。ふざけた話はいいから、どうすんだよ」
 偉そうに腕組みをしたまま、隼人が言った。一応、咲良を会長とは呼ぶことにしたらしい。
 
 「あ、ごめんごめん。でさ、予定通り学園祭はあの案で行こうと思ってるんだけど。
 天音さんの反応を考えるとあんまり怖い感じにはできないから。その辺を踏まえて、もう少し考えようよ」
 
 「考えるのは分かった。で、どこの部活に協力させるんだ?」
 隼人は手元の資料をぱらぱらと捲っている。そこには白鳳に存在する全ての部活と同好会の活動報告が記載されている。
 
 「んん〜、瑞樹。どう思う?」
 
 「うーん、やっぱり・・・必要なのは大道具の設置が出来る所と・・・衣装だよね、最低限」
 
 「じゃぁ・・・美術部と演劇部ですか?」
 白雪も、隼人の手元の資料を見ながらそう答えた。
 
 「だね。まぁ人手が足りないと思うから他にもきっと手伝ってもらう事になるけど。
 一応、その二つに生徒会からの正式な協力要請を出してくれる?」
 どちらも文化系の部活の為、白雪の管轄だ。

 
 わかりました、早急に・・・と、必要な書類を出し始めた白雪の手がぴたりと止まった。
 
 「そういえば・・・・・会長。協力して貰った部活に謝礼はどうするんですか?」
 ごくごく当然の事を白雪は聞いたつもりだった。
 咲良と瑞樹が顔を見合わせてニンマリと笑う。

 「それはね、白雪。向こうの部長さんに現物支給って伝えておいてくれる?」
 ぷぷっ、と笑いながら答えたのは瑞樹だった。
 
 「は・・・現物支給?」
 一体何が、現物支給なのかわからないまま白雪は言われた言葉を繰り返す。
 背後では隼人が「知らねぇぞ・・・」と呟いている。

 「いいの、いいの」
 
 「そうそう、気にしない〜。使えるものは何でも使わないとね〜」

 咲良と瑞樹。
 雪紀率いる生徒会の中で、充分に揉まれて育っていたらしい。



 「くしゅんっ!」
 ベッドに横になったままで天音は小さく、くしゃみをした。
 今日は朝から気分が優れなかったため、ずる休みを決め込んだのだ。
 どうも遊園地でのショックが大きかったのが、この気分が優れない原因だと分かっている。

 「何だか、先ほどから・・・妙な寒気がするのはどうしてでしょう」
 適温に保たれた室内は決して寒くは無い。
 それなのに、薄手の毛布に包まった体は・・・どうも背中がぞくぞくするのだ。
 
 「風邪でも引きましたか・・・」
 そう呟くと、もう一枚布団を足してその中にもぐってしまう。
 
 「こういう時は、寝てしまうに限るんです」
 しばらくして、天音の規則正しい寝息が聞こえてきた。
 
 翌日、この日学校に行かなかった事を後悔するとは夢にも思わない天音だった。