| 2004年 10月 2日(土) |
なつかしいね〜
電話を終えた祥太郎先生は、妙に嬉しそうな表情をしていた。
「向こうの先生がすぐ回収に来てくれるって。
じゃあ僕、もう本当に行かなくちゃ。職員会議に遅れちゃう。
それに、連絡したこと他の先生方にも知らせないといけないし。」
なにか大きな使命を果たしたつもりにでもなっているのだろうか。
足取りも軽く、去っていった。
それなのに、あっという間に祥太郎先生は戻ってきた。
「今日は、さしたる議題もないし、そんなことなら向こうの先生がお迎えにくるまであの子たちの世話をしてろって…追い出されちゃった〜。」
世話? ということは…。
「しょうがないから、行ってくるか〜。桜庭君たちも心配だしね〜。」
ふィ、とため息をつくと、祥太郎先生は生徒会室を出た。
「だ、大丈夫ですかね。祥太郎先生に、あの子達をうまくあしらえるでしょうか…。」
「そ、それは一応、祥先生だって大人なんだし…。」
「いや、しかしあいつらエライ勢いだぞ。」
私たちは顔を見合わせると、なぜかこっそりと祥太郎先生の跡をつけ始めた。
なんだか…なにをするにしても不安なのだ、祥太郎先生は。
広い構内を横切って、祥太郎先生はずんずん進んでいく。
その後を私たちが…いつのまにか瑞樹と白雪君も加わって、珍妙な列が出来あがっている。
向こうで待っていた隼人は、私たちの接近に気づくとなんともいえないいやな顔をした。
ぞろぞろと…まるで童話の、ハーメルンの笛ふきみたいなのだ。いやな顔にもなるだろう。
現場にたどり着くと、祥太郎先生はちょっと首を傾げた。それから急に足取りが軽くなる。
私たちも足を速めた。祥太郎先生は彼女たちに近づくに連れ、手まで振っている。
「おーい、君たち〜。」
祥太郎先生をみつけた女子高生たちがぎゃあっと、少女らしからぬ歓声を上げた。
「祥太郎じゃーん! ひさしぶりー!」
「なに! 祥太郎ここの学校の教師? うそみたーい!」
知り合い?
「うそーん! ほんとに祥太郎だー!」
「教生の時以来? 相変わらず可愛い顔してー!」
「みんな元気だった〜? あっ、リボンタイ変わったんだ。これも可愛いね〜。」
女子高生が一人増えたように見えるのは…私だけか?
「祥先生…。祥先生に…触るな…。」
直哉、気持ちはわかるが…、私の頭上で歯軋りするのは止めてくれ。
「懐かしいけど…ちょっと待った! ダメだよ君たち、もう3年でしょ。受験なのに遊び歩いてて!」
「「「「どうせ大学なんて持ち上がりで楽勝だも〜ん。」」」」
声を揃えるな、声を…。
「それにこのご時世、大学生になったらいきなり就職活動できゅうきゅうだもん。
恋に燃えるなら今のうちだよ!」
「そうだよ、だから祥太郎、桜庭紹介して〜。」
一人が叫ぶと、次々、私は住園、私は滝、とかまびすしい。
「だめだよ。みんなそれぞれ都合あるんだし、第一これから授業でしょ。
さっき、そっちの学校の先生にご連絡いれたから、お迎えが来てくれたら帰んなさい。」
「えー、なにそれ! 祥太郎のいぢわるー!」
「祥太郎の癖になにー! 相変わらず髪はねさせて!」
「そうだよ、生意気だー! 教師の癖に相変わらずさらさらヘアでー!」
「直しちゃえー、誰か櫛とムース! 押さえててー!」
「うわー! なにすんの! やめてよーう!」
…遊ばれてる…。
見かねて乗り出す直哉を、隼人と雪紀が必死に押さえつけている。
ご指名の直哉と雪紀が顔を出そう物なら、まさしく猫に鰹節だ。
やがて彼女たちの間から顔を出した先生は、髪をぴっちり七三に分けられていた。
「どうよ、リーマンヘアー!」
…というよりは、七五三に見えるんですけど…。
「もう、君たちは相変わらずで〜♯」
おや、珍しく祥太郎先生が怒り口調。
「だからぁ、桜庭紹介してくれたらとっとと帰るって。」
「紹介してくれないと…次はメイクもしちゃうぞ〜!」
「祥太郎メイク映えしそう! 男子校でメイクなんかしたら危険だぞー!」
いや、…メイクはもうとっくに、散々されてますから大丈夫…。
「とーにーかーくー! 僕はここの教師として、ここの生徒を守る義務があるの!
ちゃんと授業に出させるのもその義務の一つ! だから君たちの相手はしてられないの!」
「もう十分してんじゃん。」
珍しい…祥太郎先生が言い負かされてる…。
「あのねえ…!」
いいかけた先生が言葉を切った。予鈴が鳴ったのだ。
慌てた顔になる。慎吾たちももちろんだが、祥太郎先生にしたら、彼女たちも無事に早く、学校に送り届けたいだろう。
「もう〜! とにかく…。」
祥太郎先生はもう一度言葉を切った。敷地内に、バンが滑り込んできたのだ。
彼女たちに横付けしたバンから、あたふたと若い男性が降りてきた。
「どうも申し訳ありません、うちの生徒が…、あっ、朝井先生!」
「三瓶先生!」
また知り合い?
ひょろりとした印象の、眼鏡をかけたその先生は、米搗きバッタみたいに頭を下げた後、祥太郎先生の顔を見て頓狂な声を上げた。