2004年 10月 20日(水)

トカゲ。

 今日は朝から、随分な天気だ。
 夕べから何処のテレビ局も「超・大型台風」の話で持ちきりだ。

 今年の何と、台風の多い事か。
 テレビに写る天気図を見ていると、またもや列島を縦断するように進んでくる。
 慎吾のばあさまは・・・・大丈夫なのだろうか。
 きちんと避難しているだろうか。

 
 「なー、天音。何、考えとんの?」
 がさがさと騒がしく、私の教室へと入ってきた慎吾はそう言って私の顔を覗き込んだ。

 「別に。慎吾のばあさまは元気にされているか、と思っていただけですよ」
 教室の窓の外に目をやれば、雨足がどんどんと強くなってくる。
 ここが公立の学校なら、とっくに休校になっているだろう。だが、白鳳は私立高校だ。
 休むも休まないも、本人次第。

 だが、そう思って教室を見渡せば・・・今日は随分、欠席が多いのだな。

 「天音、天音って!ほんま、どうかしたん?なんや、ぼへ〜としとるで?」
 いつでも頭の中は「快晴」の慎吾には、この私のアンニュイな気分は理解できまい。
 
 「ばぁちゃんなら、さっき電話きてん。もう、近所の人らと避難所におるらしいからそんな、心配せんでも大丈夫や」
 どうやら私がブルーになっている理由を、それだと断定したらしい慎吾の口から、ばあさまの近況が聞けた。
 それだけが理由ではないが、それでも気にはなっていたから・・・少し、安心する。

 

 「慎吾、あなた・・・・・咲良たちから、何か聞いていませんか?」
 どうしようかな、と昨日から考えていたのだが。
 慎吾に聞くのはどうかと思っていたが、やはり我慢できない。
 絶対に、絶対に私に何かを隠しているんだ!あの子犬たちは!!!!!

 「ほえ?何のこっちゃ。別に、なんも聞いとらんで?」
 どうやら聞く相手を間違えたようだ。
 いくら咲良たちでも、こんなに口の軽い脳味噌筋肉に話たりはしなかった、という事か。

 正太郎先生は絶対に知っているだろうが、昨日のあの様子では聞き出すのは難しいだろう。 
 雪紀か、直哉か。
 どっちがより簡単に、口を割ってくれるのだろうか。少し、作戦を練らねばいけないな。


 「なー天音」
 「・・・・・・・」
 「天音って!!!」
 「・・・・・・・・・何ですか」

 私は今、忙しいのだ。この優秀な脳の中ではスーパーコンピューターが動いているのだ。
 お馬鹿慎吾の相手などしている暇は、ないのに。

 「知っとぅか?」
 いきなり、知ってるかと聞かれても。何を知ってるというのでしょうか?
 「あんな、こん台風の名前、俺知ってんねや!」
 「――――――――ほ――――――――――」
 「天音・・・・・今、思い切り馬鹿にしたやろ。ええか、耳の穴かっぽじって良ぅ聞きや?」
 もったいぶった様子で、慎吾はうぷうぷと気色の悪い笑い方をしている。
 「トカゲ、言うんやで〜!」

 あ、そうですか。
 トカゲ、トカゲねぇ・・・・・。ネーミングセンスを疑いますね。
 慎吾はと見れば、飼い主に誉めてもらいたくて尻尾をばっさばさと振っている犬の様な顔で、私を見ている。

 「・・・・・良く、知ってましたね」
 仕方なく頭を撫でてやりながらそう言ってやれば、慎吾の顔がぱぁっと明るくなった。

 「俺、夏休みの宿題でやったし」
 「何をです?」
 「せやから台風の名前やん。ネットで調べて、がーっと紙に書いて先生に出したったし」
 
 そうか・・・そんな子供みたいな宿題をしていたんでしたね、慎吾は。

 トカゲ、トカゲ。
 嗚呼もう!慎吾のお陰で、頭の中をぐるぐると巨大なトカゲが歩いているじゃないですか!!!