| 2004年 10月 22日(金) |
ドナドナ。
頭の中で歌がぐるぐる、回っている。
あのどことなく寂しい・・・子牛が売られて行く歌だ。
ドナドナ、というのだったかな。確か、あの歌は。
あの売られて行く子牛と今の私に、一体どれほどの違いが有ると言うのだろうか?
私の前を咲良が歩き、後ろを瑞樹が歩いている。
左右はがっちりと、隼人と白雪にガードされているこの私は何なんだろう。
罪人か?
これは島流しなのか?
廊下ですれ違う生徒達の視線が痛い。
新役員総出でこの、白鳳の氷の女王と呼ばれた私を囲んで歩いているのだ。
目立たない訳がない。
私は今から美術部の部室に連れて行かれてしまうのだ。
昨日、咲良と瑞樹に聞かされた様に、今度の学園祭に協力させる見返りに私は美術部に身売りさせられてしまうのだ。
この悲しい姿のどこが、あの子牛と違うと言うのだ?同じではないか・・・・・。
これが小説やテレビの中だったらこんな時、颯爽とヒーローが現れて私を救い出してくれるだろうに。
あの脳味噌筋肉馬鹿の慎吾では、それは全く期待できない。
いや、期待できないのではなく・・・・・もう、今更期待はしないのだ。
昨夜のうちに私は慎吾の携帯に電話をかけて、咲良や瑞樹の横暴を訴えたのだ。
そして近々、美術部と演劇部に貸し出されてしまう事も告げたのに。
なのにあの馬鹿は!!!!!
『なんやの〜、美術部ってモデルでもやらされるんかいな〜?』
ぽつんとそう言ったかと思うと、その後急に黙り込んでしまった。
どうかしたのか、と心配になった私の耳にその後聞こえて来たのは・・・・ぐふぐふという、気持ちの悪い笑い声だった。
『ええやん!それ!!!!やったり、な??モデルっちゅうからにはきっと、ヌードやんな?!俺も見に行かせて貰うわ!』
事もあろうか、ヌードモデルをさせられる私を想像していたらしい。
あんなお馬鹿には何かを期待してはいけないのだ。
そうこうしている内に、とうとう美術部の部室の前まで来てしまった。
咲良が部室のドアをノックしている。
今なら・・・・・逃げ出せるかもしれない。
そう考えた私の腕を、隣の隼人が掴んだ。
「・・・何するんですか、隼人。痛いですから離して下さい」
本当は口から心臓が飛び出しそうなほど驚いたのだが、感付かれるのは業腹だ。
「天音さん、今・・・逃げようとしたでしょう」
誰にも聞こえないように、隼人は私の耳元でぼそぼそと言った。
「そんな筈はないでしょう?私がそんなに往生際の悪い真似をすると思っているのですか?」
きっと睨みつけてやれば、隼人がにやっと笑った。
「だよな、天音さんがそんなに往生際の悪い真似、する筈ないもんなぁ。まぁ、俺らの生徒会の為に体張って来て下さいよ」
ほら、皆が天音さんを待ってますよ。
と指差された先には、美術部部員が黒山だかりになっていた。
こうして逃げ損ねた私は、ついに本当のドナドナになってしまったのだ。