| 2004年 10月 24日(日) |
高尾山生き残り旅情
朝も早うから、お迎えがきた。
演劇部の連中と、生徒会の新役員と慎吾の5人だ。
演劇部は総勢約30名。いくら我が家の前の道が広いと言っても、そんな人数の男子高校生たちがたむろすると、何事かと言う雰囲気になる。
朝が弱い私が不機嫌全開でも、ハイテンションの彼らはちっとも動じない。
それでも咲良たちは一応、生徒会の役員としての自覚はあるらしく、多少は神妙な顔つきになっている。
慎吾は…すっかり演劇部の連中と打ち解けてしまって、さも楽しそうに大声で話している。
ご近所迷惑になるから…止めないさいと言うに!
「で? この人数でどこに行こうと言うんです。」
私は不機嫌な顔つきで聞いた。お迎えというわりに、マイクロバスの一台も見当たらない。
「急な話で、なんにも用意が出来なかったので、今日はみんなで電車で高尾山に行こうということになりました。」
高尾山…。完璧ハイキングではないか。何が野点だ!
「そんな行き先なら…着替えてきます。こんな和服ではそんなところには行けません。」
「どうぞそのままで! 天音さま!」
「そうです! なにかご支障がありましたら、我々が担いで…。」
冗談じゃない!
私は泣いて縋る演劇部員を切り捨てて、一端着替えに戻った。
着替えを済ませて外に出てみると、おばあさまがいつのまにかみんなと話をしている。
「水臭いわ、天音さん。どうして私も昨日のうちにお誘いして下さらないのかしら。」
「いえ、学校の行事ですから…。」
こんなむくつけき男どもの間に、おばあさまをご一緒させられない。
「今日はなんにも用事がないと思って、お弟子さんたちとお買い物に行く約束をしてしまったのよ。
こんなことが分かっていたら、お弁当の折も作ったのに…。」
いくらおばあさまがお料理がお好きでも、こんな大人数のお弁当を作るのは大変だろう。
ましてやメンバーは、食い盛りのこいつら…。食が細そうなのは、私と瑞樹と白雪君くらいではないか。
「それじゃあ、代わりに…、これで美味しいおやつでもお食べなさい。」
おばあさまが渡されたのはおやつ代には多すぎるような大枚。
私はありがたく頂いて、家を出た。
家を出ると、大きなため息が漏れた。
「皆さん、天音さんの和服姿をとっても期待してて…。がっかりしてるんですよ。」
だったら、高尾山とかいうな!
電車に乗るのも、こんな大人数では大変だ。
駅で数名がこぼれた。走り去る電車を追いかけるようにして、ホームを走る部員が数名。
手にジュースを持っているところを見ると、買いぐいをしていて、発車に乗り遅れたらしい。
「あー、アホやで、あいつら。」
慎吾がケタケタと笑う。しかし、その手にはしっかりお菓子が握られている。
「ま、行き先は決まってるんやし、高尾の駅でまっとったらええな。」
「待ちませんよ、私は。そんな規律を乱す者はおいていかれて当然です。」
せっかく人数が減ったのに、わざわざ待ってなるものか。この手で少しずつ人数を削っていこう。
「天音は相変わらず厳しいな〜。そこがいいとこなんやけどな。」
えへへ、と笑いながら、慎吾がお追従を言う。
そうしてそんなことをいいながら、買ってきたお菓子の袋をあけようとするので、私はその手をバシッと叩いた。
「電車の中で飲食はお止めなさい。意地汚い。」
「えやないの。俺、朝飯抜きで、めっちゃはらぺこやねん。」
「こんなところでそれを開けるなら、次の駅で降りて帰りなさい。私はそんなだらしのない人とは一緒にいたくありません。」
そういうと、演劇部の連中のうち数名がギクギクと背中を強張らせた。
やれやれ。これでまた数名脱落させられるな。
案の定、私の逆鱗に触れることを恐れたのだろう。次の駅で、演劇部部長の手によって数名が下ろされた。
これで残りは約25名…。もちろん生徒会役員たちは全員のこっている。
しかし、せっかくのお休みに、何が楽しゅうて山登りをしないと行けないのだろう。
私は迷わずリフトを見た。3人乗れるリフトは、案の定長蛇の列だ。
私は瑞樹と白雪君を呼んだ。
「私たちは、あのリフトに乗っていきます。列が長いから、きっと頂上につくまでに1時間以上掛かるでしょう。
皆さんは、当然徒歩で上るんですよね? そのための高尾山ですものね。
頂上のリフト乗り場で合流しましょう。ちなみに私はさっきも言った通り待ちませんからね。
私たちがあがってくるまでに来れない人は、その場で解散です。」
そう言ったとたんに、演劇部数名が血相を変えて走り出した。
徒歩組に、慎吾と咲良と隼人も入ってしまったが、あの3人なら大丈夫だろう。
リフトの列はだらだらと長くて、待っているだけでも足がだるくなった。
運動の苦手な瑞樹はほっとしたような顔だが、白雪君はちょっと不満げだ。
「俺も…徒歩でもよかったのに。」
「まあ、せっかく3人乗れるんですから、いいじゃありませんか。」
なにより、私が両脇を可愛い子で固めるのが楽しい。
「隼人…平気だと思うけど、絶対来てますよね。」
なるほど…隼人と分かれるのが不安なわけか。わたしほんのちょっぴり意地悪な気分になった。
「さあ? ここは天狗さまの聖地ですからね。何が起こるか?」
もちろん、隼人は来るに決まっている。私が白雪君を人質に取っているのだから。
そうしてやっとの思いで頂上につくと、やっぱり隼人と慎吾と咲良の3人はちゃんと揃っていた。
演劇部は今や10名ほどになっている。
それではいよいよ本格的に、お茶でも飲みますか。