2004年 10月 29日(金)

嫉妬する、という事。

慎吾が隼人を、咲良が白雪をそれぞれに羽交い絞めにしている姿に、私は言葉を失う。
隼人はともかく、白雪がこんなに怒る様な事は一体、どんな事なのか。
背中からがっちりと押さえ込まれながらも、二人の視線はぶつかり合っている。
まだこの喧嘩は終わりそうに無い。

ほう、と私はため息を一つ。

「瑞樹」

泣きそうな顔で私を見ている瑞樹を呼んだ。

「雪紀と直哉を呼んで来てくれませんか?このままでは埒が明きません。かと言って、慎吾と咲良が手を離してしまえばまた・・・暴れるでしょうから。直哉と雪紀がいれば、隼人がいくら暴れても安心です」

最後まで私の言葉をきちんと聞き終えた瑞樹は、はいっ!と返事をして踵を返した。
その後姿を見送りながら、私はこれからどうしようかと考える。
とりあえずは隼人からだな。
どうぜ原因はこいつなのだろうし。


「隼人」
「・・・・・・・・」

目の前に立って、その名前を呼んだ私に、隼人は返事も返さない。
隼人の肩越しに、慎吾の顔も見えたが、意外なことにその慎吾が額に汗をかいている。
よくよく見れば黙ってはいるが、隼人の両腕にかなりの力が入っているのが見て取れた。
慎吾に羽交い絞めにされながらも、こいつはここから抜け出そうとしているのか。
確かにこれでは、名前を呼ばれても返事も出来ませんね。

「慎吾、大丈夫ですか?」

今度は真剣に隼人を押さえつけている慎吾に聞いてみた。

「おう、大丈夫や〜。けど、なんっちゅ・・・うか、ま〜。こいつ、ほんまに・・・往生、際がわる・・・いっ!」

途切れ途切れに言いながらも、私に向かってへらり、と笑ってくる慎吾は何となく格好良かった。

「もう少しの間、頼みましたよ?」

暫くすれば瑞樹が直哉と雪紀を連れて戻って来る筈だ。
それまでは慎吾に頑張って貰うしか、ないだろう。

さて、次は白雪か。
そう思って反対側を振り向けば、こちらは隼人とは違って、全身の力が抜けている。
咲良も「押さえつける」のではなく、まるで白雪の体を支えているように見えた。

「白雪、大丈夫ですか?」

優しく声をかければ、白雪は小さく頷いた。


「なんだ、この部屋は」
「隼人っ!お前、何やってんだっ!」

がらり、と生徒会室のドアが開いた音がして、直哉と雪紀が入ってきた。
雪紀は先ほどの私と同じように、室内の惨状に眉を顰めている。
直哉がつかつかと隼人の元へと歩み寄ると、バキッ、という音を立てて拳が飛んだ。
慎吾に羽交い絞めにされていたために、隼人の体が横に飛ぶ事は無かったが・・・唇からは新しい血が流れていた。

「お前は、何度同じ事を言わせるんだ!自分が暴れたらどういう事になるのかまだ分かってないのか!」
直哉が怒鳴る。
だが隼人は何も答えず、ギラついた目で直哉を睨みつけている。
そんな姿を見て、隼人も随分と兄離れをしたものだ、と妙な事に感心してしまった。

「ちょっとこっちへ来い・・・・・」
隼人の後ろにいる慎吾に、もういいぞ、と声をかけた直哉は隼人の腕を掴んでソファーへと座らせた。
そこへ雪紀も、無言で近づいていく。
流石は息が合っている、と誉めるべきか?前に直哉、隣を雪紀に遮られてしまえば隼人に逃げ場はない。

私は瑞樹を呼んで白雪の所へと行く。
咲良に体を支えられるようにしてようやく立っている白雪の顔色は、真っ青だ。
どこかで落ち着かせなければ、ならないだろう。
心なしか白雪の握り締めた手が小刻みに震えている。
私達は白雪を生徒会室から連れ出すことにした。

部屋から出て行く時に、隼人の方をちらりと見やれば。
随分大人しく、頭を垂れている。
そして何やら直哉と雪紀に、ぼそぼそと低い声で答えているようだ。
何を言っているのかははっきりとは聞き取れない。
それでも、「白雪」「他の人間」「気に喰わない」等と言う言葉が私の耳に聞こえてきた。

それらを繋ぎ合わせて鑑みるに。
隼人は嫉妬を、したのだろうか。