| 2004年 10月 3日(日) |
唖然…
バンから降りてきた若い男性は、恐縮至極の顔つきで、祥太郎先生にぺこぺこ頭を下げている。
「本当に申し訳ありません、朝井先生。
ほら君たち、一緒に帰ろう。だめだよ、人様にご迷惑をおかけして。」
「あたしら別にー、ちょっと桜庭と他の人に会わしてもらえばすぐ帰ったのにー。
迷惑かけてるの、どっちかって言うと祥太郎の方じゃん。」
「なんで僕が迷惑ー!」
「いや、朝井先生、本当に申し訳ない。
………ヘアスタイル変えられたんですね。なかなかお似合いで。」
あの教師も相当抜けた奴だな。
「ところで三瓶先生、やっぱり教生からそのままここの女子高に進まれたんですね。
三瓶先生はずいぶん学生たちにからかわれ…いえ、人気があったから、どうされるかって、僕たちの間でも話題になっていたんですよ。」
「え、いやーははは…。なんだかこの子達も慣れると離れがたくってねえ…。
そういう朝井先生だって、人気は抜群だったじゃありませんか。」
「僕は…どっちかって言うと、ペット扱いって言うか…。」
さすが祥太郎先生。自分をよく分かってらっしゃる。
「ねえねえ、そんなオヤジの昔話はどうでもいいから、早く桜庭ー!」
「オヤジってなに! 僕はせいぜい高校生にしか見られないんだぞ!」
高校生でもマシな方かと思われるが…、自慢になってません、先生…。
「ど、どうでしょう朝井先生、いっそこの子らを、その、桜庭君に会わせたら…。」
「な、なに言ってるんです、三瓶先生…。」
言いかけた祥太郎先生の声が、ものすごい女子の声で遮られた。
「サンペー! 良く言った!」
「そうそう、ちょっと会わしてくれて、約束したらすぐ帰るし!」
調子に乗って騒ぎまくる女子たち。終いにはサンペーコールまで。
間に挟まれた祥太郎先生が、うるさそうに両手で耳を押さえた。ここまでうるさいんだから…当然か。
しかしそのとき私たちは気づいてしまった。
寮の出入り口近くでこっそりあのやり取りを伺っている慎吾と咲良の姿に。
「天音さん、あそこの、木の陰に!」
白雪君と瑞樹が気づいて指を指す。
咲良は女の子達の勢いにちょっと怖気づいたような顔だが、慎吾は興味深々の顔だ。
もうまもなく本鈴もなる。授業に出るなら当たり前だが…今日ばかりはおとなしく引っ込んでいればいいのに!
だが…長年付き合っている私にはわかる。
あんなうずうずしている慎吾が…おとなしくしているわけがないのだ。
と思っていたら、やっぱり…!
「おーい、そろそろ俺ら授業出たいんやけど、まだ終わらへんの?」
おまえのことで揉めているんだから、顔を出すな!
「ぎゃーっ! 桜庭来たー!」
「な、なんやの。俺は怪獣かい!」
さすがの慎吾も腰が引けてる…。
「うっわ、でっけ! 凄い、腕なんか太!」
「あはは、髪の毛ぐちゃぐちゃでなんかかわいいー!」
「ちょ、ちょっと、こらっ!」
たちまち群がる女子高生に、祥太郎先生なんか簡単にはじき出されてしまう。
「ねえねえ、桜庭彼女とかいるぅ?」
「え、やー、彼女はおらへんけど。」
言いながら慎吾はちらりとこっちを見た。そしてぺろりと舌を出す。
あいつ! 私が見ているのを知っていてわざと言ってるな!
たしかに私は彼女ではないが…! だからと言ってそんな思わせぶりな言い方は…!
カッカした私は、気がつくと彼女らの前に踏み込んでいた。
「慎吾! ちょっと…」
「ぎゃー、生徒会の国見だー! あっ、ほらあそこ!」
「あっ、住園だー! 滝もいる!」
しまった、ついうっかり…。
祥太郎先生が恨みがましく私を見上げた。
「んもー、せっかく僕が苦労してたのにー!」
すいません先生…。ちょっと肩を竦めたが、祥太郎先生はこっちなんか見ちゃいない。
視線の先を追うと、ちゃっかり直哉に駆けよってがくがく揺すぶってる女子を睨んでいるようだった。
とりあえず…怒りの矛先が逸れて、私はちょっとほっとした。
「さ、さあ君たち、念願の桜庭君に会えたんだろう? もう帰るよ!」
「え──────、もう──────?」
「会えたらとっとと帰るって言ったのは君たちだろ?」
三瓶氏が困り果てた口調で言うと、彼女らは顔を見合わせた。
「しょうがないかー。また教頭にサンペーが怒られるんじゃ、かわいそうだから、帰ってやるかー。」
「うん、でもその前に、明日のアポ取っとこうよ!」
「そうだね! ねえ桜庭、明日みんなで遊びに行こう!」
「明日? 俺は別にかまへんけど。」
即答するな!
「やったー! それじゃ、こっちは四人だから、そっちは桜庭と滝と住園と、後は祥太郎も来てね。」
「な、なんで僕もー!」
「女余ると悲惨じゃん。」
「わ、私も行きます!」
こんな魔女どもの中に、慎吾を放りこめない。
「えー、国見来ると、男が余るよ〜。」
「いいよ。いい男いっぱいはべらしてるほうが、カッコいいじゃん。」
「それもそか。じゃ、そっちはあの、カワイイ子も来ていいよ。」
突然のご指名に、咲良がビクゥと竦んでいる。
「こ、怖い…。」
こっそり漏らした言葉が…彼女らに聞こえなくてよかったな、咲良…。
「そ、そんなことなら、僕も行くから。」
「「「「えー、サンペーはこなくていいよー。」」」」
「だって君たち、どんなご迷惑おかけするか分からないから…! 監視です!」
やれやれ…この気弱そうな先生に、監視なんて勤まるのか…。
こうして結局祥太郎先生の奮闘空しく、休日のグループデートが決まってしまったのだった。