| 2004年 10月 31日(日) |
隼人の告白
生徒会室には、憮然とした顔の直哉と雪紀。呆然とした顔の慎吾、それからなぜか祥太郎先生がいた。
「隼人はどうしたんです?」
おろおろする白雪が可愛そうで、私は口調を荒げて聞いた。
「やー、驚いたで〜! 直哉と隼人の喧嘩は、まるでゴジラ対ガメラや!」
どんな例えだ…。
「や、だから、暴れまくって破壊の限りをつくすんやって!」
そう言えば…、さっきよりも生徒会室が荒れている気がする。
「それにしても、雪紀と直哉が揃っていながら隼人一人を取り逃がすなんて、なんて不手際な。」
「それについては、僕が…。」
さっきまで直哉の脇をうろうろしていた祥太郎先生が悄然と言った。
「直哉君と隼人君がもめてるんで、慌てて間に入っちゃったんだ。そしたら直哉君はぴたっと手出しを止めちゃって…。」
「祥先生がいるのに、手なんか出せるか。俺たちの拳は凶器なんだ。」
さらに憮然とした直哉。よく見ると、頬が腫れあがっている。どうやら一発食らったらしい。
「いま、咲良と瑞樹を探しに行かせた。あいつ、やつあたりで他の奴に喧嘩を吹っかけかねないからな。」
「それはまずいでしょう。」
隼人はすでに1度、停学処分を食らうような暴力沙汰を起こしている。
今度似たようなことがあったら、下手をすると退学だ。
「お、俺も…探しに行ってきます!」
白雪が飛び出していってしまう。私はため息をついて、慎吾の腕を取った。
「私たちも行きますよ。」
「ほんなら、雪紀たちも…。」
「あの二人がうろうろしたら、隼人が出て来たくても来られないでしょう。彼らは留守番です。」
どうせ祥太郎先生は直哉にべったりだし。
やれやれ、面倒くさい。私は顔を顰めた。
しかし、隼人がいくら乱暴者で私の可愛い規準には程遠いと言っても、やはり後輩としては可愛い。
どこへ行ってしまったものやら…。私はふと思い出した。
昔直哉がおもしろくないことがあると、必ず行く場所があったな。
今は使われていないプール脇にちょっとした木立があって、そこならめったに誰も来ない。
行ってみると…いた!
やっぱりよく似た兄弟だ…。
「隼人。ここにいましたか。」
突っ込みそうになる慎吾を抑えて、私は柔らかい声を掛けた。
びくっと震える大きな背中が振り向くと、顔が3色くらいになっている。
直哉め…弟相手に手加減を知らない奴。
「隼人…。みんな心配しています。生徒会室に戻りましょう?」
私は柔らかい声を出した。
直哉や雪紀みたいに、威圧するだけじゃ子供は手懐けられないのだ。
「白雪から話は聞きました。あなたは、白雪が心配だったんでしょう?」
直哉はしばらく威嚇するような目つきで私たちを睨んでいたが、やがて肩を落として頷いた。
「俺は…、無愛想だから、白雪が余計にみんなに親しげにしてくれてるのは分かってる。
でも、俺以外の奴に、にこにこする白雪を見てると、なんだかイライラするんだ。
その上、白雪の奴、あんな下心丸出しの奴らの誘いも気づかずにほいほいついてって…。
危なくなったら俺に助けを求めればいいのに、それもしないで。
俺は…白雪にとってなんなんだって思ったらつい…白雪を怒鳴りつけてた。
あいつにもらった拳骨なんて痛くもなんともなかったけど、あいつの真っ青な顔を見たら、自分自身に腹が立って…、無茶苦茶に暴れたくなっちゃったんだ。」
気持ちはわからないでもないが、それで巻き添えを食った生徒会室の備品たちは哀れではないか。
「それは、あなたが白雪を憎からず思っているからなんですよ。
あなたの気持ちはちゃんと白雪に伝わっています。大丈夫。
さあ、それでは戻ってみんなに暴れたことを謝って、それで手打ちに…。」
「いやだ!」
はあ?
この後に及んで何を…?
「俺が…白雪に忠告したことは間違ってないし、俺のことを3人掛りでボコにした兄貴たちに謝るのはもっとやだ!
俺は絶対間違ってない! 生徒会の仕事だってちゃんとやってるし、学園祭のことだって滞りなく進めてる!
その上謝ることなんか何にもない! 白雪も…俺の忠告が聞けないんなら、好きにすればいいんだ!」
なんでそんな発言になるかな…。
「やっぱ、可愛らしいなあ、隼人は…。」
「うるせえっ! 可愛いとか、言うなぁっ!」
なんだか話をこじれさせてしまった気がする…。
私たちはそのまますっ飛ぶような勢いで走っていく隼人を、なすすべもなく見送ったのだった。