| 2004年 10月 4日(月) |
デートの始まり
「何で私がこんな目に合わなければならないんですか!」
休日のファーストフード店のトイレで私は目の前に突っ立っている大きな物体をがくがくと揺さぶった。
だが憎らしい事にこの大きな物体は、私ごときが揺すぶった所で「へ」とも感じていないのだ。
「え〜だって。あんなん長い事、待たしておいて全然呼びに来おへんし?俺だって授業には出なあかんし。せやからほんのちょこっと、顔出しただけやんー」
へらり、と慎吾が笑う。
「私達が呼ぶまで出てきてはいけないと、言いませんでしたか?!」
「うーん?聞いたような、聞いてなかったような〜?」
こいつ、絶対に確信犯だ・・・。私はへらへらしている慎吾の顔を睨みつけた。
「ん?天音どしたん。そないな恐い顔したら、折角のべっぴんさんがだいなしやん。ほら、笑ってぇな?」
大きな手でむにむにと、遠慮なく私の頬をいじくり回す。
「そないに怒らんと。ちょっとした退屈しのぎやないかい。あん子らの中にだって、天音ほどのべっぴんはおらんさかいに安心せぇな?そないに俺は浮気モンとちゃうわ〜」
ふいに真面目な顔で私の目を覗き込んだ慎吾が。
ちゅっ、と音を立てて私の頬にキスをした。
「なっ、な・・・何をするんですかっ!」
私らしくもない、たかだかほっぺにキスされたくらいで・・・こんなにも取り乱してしまうなんて。
場所が場所だけに、誰に見られるかも知らないのだ。
「ほんま、天音は可愛いわ。ほな・・・そろそろ行こか?雪紀達が来る頃や」
真っ赤になっているだろう私を、慎吾は満足気に眺めて。時計を確認するとトイレの入り口のドアを開けた。
「なんだ、お前ら。今頃来たのか」
店内の2階席に向かうと、既に雪紀たちは来ていた。
「ええ、先ほど。ところで直哉と祥太郎先生は?」
「今、下に飲み物買いにいったぞ。祥太郎先生が喉が渇いたと仰られてな」
雪紀め、しっかり隣に咲良を座らせている。しかしその顔は・・・眉間に深い皺を刻んでテーブルの上には煙草が投げ出されている。
「こんな所で煙草なんて吸っていたら、怒られますよ?今日は祥太郎先生も、あちらの先生も同行されるんですから」
私は、一高校生としてもっともな意見を述べた。
なのに雪紀の奴!
おもむろに煙草を1本引き抜くと、火を付けて・・・肺の中まで吸い込んだであろう煙草の煙を私の顔に吹き付けたのだ!
「何するんですかっ!」
「ごめんなさぃっ!天音さん、許して〜」
怒りの余り雪紀に詰め寄ろうとした私を、咲良が止めた。
「どきなさい!咲良!!」
「どきません〜、お願いですぅ・・・これ以上、雪紀さんを刺激しないでくださいよぅ。謝るんなら俺が代わりに謝りますから〜」
うるるん、とした目で咲良が私を見上げた。
その首筋に、何やら赤いものがちらほらと見え隠れしている。
おそらく今日の咲良の服装では・・・その痕は隠れるか、隠れないか。ぎりぎりの所だろう。
こんな事をするのは雪紀だけだ。きっと昨日の腹いせに散々、咲良を泣かせたに違いない。
「・・・わかりました、今回は許してあげます」
何だか咲良が不憫に思えて、私は怒りを鎮める事にした。
「許してやるだ?偉そうに・・・第一、今回の原因を作ったのはそこの馬鹿犬だろうが!飼い主なら最後まで責任を取れよ!」
イライラとした様子で雪紀は煙草をもみ消すとふんっ、と横を向いてしまった。
「みんな、お待たせ〜。みんなの分も買ってきたからね!僕のおごり」
ふいにこの場にそぐわない、明るい声が響いた。
祥太郎先生だ。その後ろにはドリンクが乗ったトレーを持った直哉もいる。
「あっ!」
どうやら雪紀の目の前に置かれた灰皿に気が付いたらしい。しかし祥太郎先生は想像に反して何も言わなかった。
それどころかその灰皿を退かそうともしない。
「はい、これ。君の分」
祥太郎先生は常と変わらない様子で、雪紀にドリンクを手渡す。
「・・・・・どうも」
そこまでされては雪紀もこれ以上、大人気ない態度は取れなかったらしい。渡されたドリンクを受け取ると一応、感謝の意を表した。・・・仏頂面のままだったが。