| 2004年 10月 5日(火) |
恐怖の時間
私達が揃ってから遅れること、暫く。
突然、祥太郎先生の携帯電話が鳴った。
「はい。あ・・・三瓶先生ですか?え?あ、はいはい、わかりました。はい、では」
全く私達には理解不能な会話がなされている。
電話というものは、聞いていると案外・・・会話の内容などがわかるものだが。
この、祥太郎先生の会話は全くもって、理解不能だった。
「あのねぇ・・・場所、移動するから」
電話を切った祥太郎先生が、突然そう言った。
「何でだ?ここで会う約束だったんじゃないのか?」
場所の移動なんて、普通に遊びに来ていたってある事だろうに。雪紀の奴は、どんな事にでも難癖を付けたいらしい。
咲良など、隣ではらはらしながら雪紀を見上げている。
「うーん、そういう約束だったんだけどね。彼女達がどうしても場所を変えたいって、騒いだらしくて・・・。ほら、電車でこっちに来るのに・・・余り、騒がしくしたら周りの人に迷惑でしょう?」
「なんだ・・・あいつ、車で来いよ!」
この場合の「あいつ」とは、三瓶氏の事だろう。
「いや、だって。学校じゃないから、車で来たって駐車場ないでしょう?」
「そんなもの、その辺に路駐しとけばいいじゃないか」
「・・・それは、犯罪だよ?」
まったく子供じみた雪紀の我が侭に?ご丁寧に付き合うなんて、祥太郎先生は気が長い。
こんな大きな子供は、放っておけばいいんです。
「とにかく、三瓶先生の立場も考えてあげてよ。ってことで、場所移動〜」
キリのいいところで、雪紀の反論を打ち切った祥太郎先生は飲み残したドリンクを手にもって立ち上がる。
当然のように、直哉もそれに続く。
「あの・・・雪紀、さん?」
「しょうがないな」
咲良に促された雪紀が、しぶしぶ立ち上がった。
「ちょ、天音!こっちや、こっち!」
私が店外に出ると、一足先に出ていた慎吾が私を手招きした。
「何です?慎吾」
「あんなぁ・・・今から、何処行くか知っとるか?」
慎吾が思わせぶりに声を潜めた。
「知りませんよ、聞いてないんですから。第一、行き先なんて祥太郎先生しか知らないんじゃ?」
「ふふふ〜、俺なぁ、今・・・聞いてん。したらな、何処やったと思う?」
声は潜めたままだが、妙に慎吾が嬉しそうだ。
「あんな、今からカラオケ、行くんやと!」
私の耳にしか聞こえない声でそう囁くと、慎吾は「うぷぷ」と言いながら口元を押さえた。
「いい?みんな揃ったかな?」
全員が見せの外に居るのを確認して、正太郎先生が先に立って歩き始めた。
本人は私達の引率のつもりだろうが、どちらかと言うと・・・隣で歩く、直哉の方が引率しているようだ。
約束してあるというのに、祥太郎先生の視線はあっちの店、こっちの店へと彷徨い忙しい。
15分も歩いた頃だろうか。
いきなり「ぎゃーっ」という悲鳴が聞こえた。
どうやら約束の場所に着いたらしい。
店の前にだらしなく座り込んで、三瓶氏に何事かを注意されていた彼女達が私達に気が付いたのだ。
「うわー!やっぱ、格好いいし!」
「マジで桜庭って、でかい〜」
「やだー、いい男ばっかりで最高!」
誰にどう思われるかなんて、気にしないのが彼女たちだ。ひとしきりぎゃーぎゃー騒いで気が済んだのか、たたたっと私達の所へと駆け寄ってくる。
「さ、いこっか!カラオケ、カラオケ〜!」
そう言って、三人が三人。お目当ての人間の腕にぶら下がる。
慎吾も、雪紀も、直哉も・・・・・固まったままだ。
それだけではない。
急に周囲の温度が下がったように感じるのは、私の気のせいではないだろう。
直哉にぶら下がる女の子を睨みつける祥太郎先生の視線にははっきりと・・・嫉妬の色が浮かんでいた。