2004年 10月 6日(水)

It's showtime!

 「なんだ?どうしてこんな所に?!」
 カラオケ屋の店内に無理やり運び込まれた雪紀が、彼女達に聞こえないように呟いていた。
 嫌なら嫌だと、はっきり言えばいいものを・・・生意気に見栄を貼るものだから、こういう目に合うんですよ。
 私はそう言いたいのを我慢した。
 先刻のファーストフード店での雪紀の狼藉を、忘れたわけではないのだ。

 「ん〜、この人数だからね」
 「どうしましょうか、お部屋は」

 私達のことなど気にもせず、祥太郎先生と三瓶氏はフロントで悩んでいる。

 「先生、何を悩んでいるんですか?」
 直哉が先生の背後から声をかけた。

 「あ、直哉君。部屋、どこがいいかなぁって。時間もどうしようかって、ね?先生」
 「そうですね、本当にどうしましょうか・・・先生」

 何故に教師と言う人間は、互いの事を先生と呼び合うのだろうか。
 

 「別に・・・どこの部屋でも一緒でしょう?時間だって、ほら。日中はノータイムじゃないですか?ここに、書いてあります」
 よく見て下さいよ、と直哉はフロントに置かれた薄っぺらなプラスチックの板を指差した。
 「・・・本当だ。へー、今は何時間、なんて言わなくていいんだね〜。ねぇ、三瓶先生?」
 「そうですね、知りませんでした。いや・・・今時の子って・・・」

 ああまた。
 どこの老人会の御守をしているのだろう、私達は。
 ちらりと直哉が私を見たので、そっと目配せをする。どうやら私の思いは直哉に届いたらしい。

 「先生、ここは俺がやりますから。ちょっと退いてください」

 直哉が手続きをしてくれたお陰で、ようやく私達は部屋へと案内された。


 
 「よっしゃー!歌うで〜!!」
 部屋に入るなり、慎吾がマイクに飛びつく。
 「ナイス!桜庭っ!あ、これ!これ歌って!!!」
 素晴らしいタイミングで、慎吾に張り付いていた女の子が番号を示す。
 「おっ、ええで!これな〜俺、めっちゃ上手いで〜」
 「マジ?早く聞きたい!」

 何だかな・・・。慎吾が遠くに行ってしまった気がするのは。
 そう言えばこんな風に、同世代の女の子たちと慎吾が仲良く話をしている姿なんて、見たことがないぞ。
 私だけ、なんていいながら・・・本当は、慎吾も女の子を抱きたいのだろうか?
 ふいにそんな事を考えてしまって、私は一人ブルーになってしまった。
 これではいけない、と思って雪紀たちを見てみる。


 雪紀は・・・相変わらずの仏頂面で、女の子が何を言っても答えない。
 とうとう、自分を取り繕うのをやめたらしい。
 

 じゃぁ、直哉は?
 これはこれで・・・物凄い光景かも知れない。
 隣に、女の子。そしてもう片側には祥太郎先生が座っている。
 
「あ、次!次、僕これ歌いたい!!!ねっ、直哉君!予約して〜」
 
 女の子が何かを言う前に、祥太郎先生が仕掛けた。
 直哉は当たり前の様に「いいですよ?」と言いながら、リモコンを操作している。
 さらりとスルーされた女の子は、呆然と直哉と祥太郎先生を見つめている。

 当たり前か。
 まさか自分を無視して、教師の相手をする高校生がいるなんて思っていなかっただろうから。