| 2004年 10月 7日(木) |
ラブ・バトル?
何だか今日の祥太郎先生は、おかしい。
「おかしい」等と言っては、語弊があるのかも知れないが。とにかく、直哉に対して積極的な態度を取り続けている。
直哉を真ん中に挟んだ両隣では・・・女子高生と、教師が対等の戦いを繰り広げているかのように、私には思えた。
まず手始めに、軽いジャブを出したのは祥太郎先生の方だった。
直哉に「この曲を入れて」と、オネダリ。
また、直哉がそれを当たり前の様に「いいですよ」と受けたものだから、隣に座っている彼女は口が開いていた。
それだけではない。
祥太郎先生の順番が回って来るたびに「次はこれね」と、全て直哉にやらせる。
全くと言って良いほど、直哉に話しかける隙も与えられない女子高生はいい加減、ご機嫌斜めだ。
次に仕掛けたのも祥太郎先生の方だった。
軽くスナック類でも頼みませんか?と三瓶氏が言ったので、私達は適当にメニューから選んで注文を入れた。
それが部屋に届けられた所から、第二ラウンド開始だ。
派手に着飾った外見を裏切って、直哉の隣に座った子は案外・・・甲斐甲斐しかった。
まぁ、たかだか数時間ならどんな風にも自分を取り繕う事は出来るだろうが。
直哉の前に置かれた小皿に、ニコニコしながら食べ物を取り分けている。
それを黙って見ていた祥太郎先生が、行動を起こした。
「ねぇ、直哉君」
「なんですか?翔先生」
つん、と直哉の袖を引っ張る祥太郎先生は、今この時・・・自分が教師であるという事を捨て去ったらしい。
「あのね、僕・・・あれが食べたいんだけど?」
先生の向いに座っている雪紀の前に置かれた食べ物を、所望らしい。
だが、ここは所詮カラオケ屋だ。さほど広くない室内に置かれたこのテーブルの上のものなど、ほんの少し手を伸ばせば届くのだ。
そんな祥太郎先生の様子は、いたく直哉のお気に召したらしい。
「ああ、いいですよ?今、取りますね」
にっこりと笑って、いそいそと祥太郎先生の更に食べ物を取り分ける。
「ありがとう。直哉君て、本当に優しいね」
出たぞ、伝家の宝刀。祥太郎スマイルが。
もう誰も、この二人の間には割って入れない・・・。そんな空気が室内に漂い始める。
「あーっ、もう!なんなの?!滝って、変!なんで、たかだか教師にそんなに優しいのよっ!」
突然、直哉の隣に座っていた女子高生が切れた。
「変だよ、変!絶対に、変っ!!!祥太郎も、センセーのくせしてなんでそんなに、滝にべたべたすんの?!私が滝を落そうとしてるの邪魔してるでしょっ!」
祥太郎先生を睨み付けながら、ぎゃぁぎゃぁと喚き散らす。
「ちょ、ちょっと。落ち着いて。朝井先生は、生徒会の顧問もしていらっしゃるから滝君は、敬意を持って接しているだけでしょう。ねぇ?滝君」
突然、割って入ったかと思った三瓶氏が、そんなトンチンカンな事を言い出した。
「でも、変だもん!」
「変じゃないよ。いいなぁ、朝井先生・・・。そんなに生徒に慕われてるなんて、羨ましいですよ。俺なんて・・・俺なんて!」
「さんぺー?ちょっと、どうしたの?!」
何を思ったのか、三瓶氏はさめざめと泣き始めてしまった。
「俺なんて、この子達にいいようにからかわれて。いつもいつも、さんペーなんて呼ばれて。でも教師以外に何も出来ないから、頑張ってやってるのに。浅井先生が羨ましいですよ」
ぼそぼそと呟きながら、腕で顔を覆ってしまう。
「泣かなくたって、いいじゃん〜」
「そうだよー。別に私ら、さんペーの事、馬鹿になんてしてないしー」
「そうそう、そんなに羨ましいなら、ほら。取って上げるから、食べなよ。もしだったら、食べさせてあげるからさー」
泣き始めた三瓶氏をどう思ったのか。彼女達は口々に慰め始めた。
「ほら、泣かないよ〜」
「よしよしして、あげるからさ」
「もー、さんぺーって子供なんだから〜」
入れ替わり立ち代り、三瓶氏の頭を撫でたりしている彼女達は、さっきまでの姦しい女子高生とは思えない。
思いもよらない三瓶氏の行動に、どうやら毒気を抜かれてしまったのだろう。
その間も、祥太郎先生は直哉の隣に座り続け、何事かを耳打ちしている。
どうやら直哉を巡る争いは、祥太郎先生に軍配が上がったようだ。