2004年 11月 1日(月)

衣装合わせ

休み明けの生徒会室は、一種異様な雰囲気が漂っていた。
役員のみんなが一様に押し黙って、重苦しい雰囲気に包まれているのだ。
その重苦しい空気の中心にいるのは、隼人と白雪だ。

私は隼人の顔を見るなりため息が出た。
週末には肌色も含めて4色だった顔が、見事なツートンカラーになっている。
痣が青黒く定着しているのだ。特に目の周りはパンダみたいだ。
格好が付かない事おびただしい。

白雪は…とみると、こちらは案外元気な様子だ。
しかし、行動の端々に無理をして笑っている様子が伺えて、なんだか痛々しい。
隼人のあんな顔の原因が自分だと分かっていて、落ち込んでいるのを空元気に隠しているのだろう。
私はもう一度ため息を吐いた。
咲良と瑞樹は、こういう場面にはやはり、まだ頼りない。

そんな中に、演劇部の連中がやってきた。何やら大荷物を抱えている。
「まいどー! 演劇部でーす! 衣装の仮縫いに…。」
やってきました、という能天気な言葉がもごもごと口の中に消えた。
重苦しい雰囲気を感じ取ったらしい。

「あー、せやったら俺、祥太郎先生と雪紀たち呼んでくるわ!」
慎吾がすたこら逃げ出した。あいつめ…。

演劇部員達はおどおどしながらも、持ってきた包みを広げ始めた。日が迫っているのだ。どうしても今日中に用事を済ませなければならないのだろう。
まず出てきたのは、蓑と杖。なんだこれは?
「子泣き爺の衣装でーす。」
「はーい! 俺俺!」
咲良が勢いよく手を挙げる。…何を好き好んでそんな格好…。

「咲良が子泣き爺という事は…。」
「はい、俺は砂かけばばあです!」
嬉しいのか? 瑞樹が楽しそうに手を挙げる。
「和服はそっちの包みです。まず先に、こっちを見て下さい。」
演劇部が慌てて言う。

「はい、じゃ、これ。」
馬鹿でかいシャツとズボン。それから…突起のついたようなヅラ…?
「ああ、これは慎吾センパイのフランケンシュタインです。あと灰色のボディーペインティングがあります。」
ボディーペインティング…、いかにも慎吾が喜びそうだ。
私としてはさせたくないが…、あいつがきっと自ら志願したんだろうな…。
やれやれ…。私は更にため息を吐いた。

次に出てきたのは巨大な着ぐるみだ。もさもさの毛が生えている。
「これは…?」
「隼人の雪男です! ちなみに、白雪の雪女とセットなんですよ!」
咲良が声を上げた。まるで隼人の機嫌を伺うように横目でちらりと見る。
隼人がぐっと唇を噛み締めた。

「くっだらねえ。何が雪男だよ。高校生にもなって、餓鬼のお遊びみたいな事考えてんじゃねえよ。」
「隼人!」
いきなり吠え始めた隼人に、白雪が慌てて牽制を入れる。隼人はギロリと白雪を睨んだ。
「くだらねえと思うけど、これが生徒会の出し物だって言うなら、しょうがねえ、乗ってやるよ。だけど、白雪とセットだって言うのはごめんだ。てゆーか、こいつはそんな所じゃ使い物になんねえよ。」
「な、なに言って…!」
白雪の顔から血の気が失せていく。

「俺が…どうして使い物にならないんだよ! 馬鹿にするなよ、隼人! 俺だって…!」
「こんどの出し物、なんだかわかってんのかよ!」
びりびりと空気が震えるような大声で怒鳴られて、白雪が立ちすくむ。我々も唖然と事の成り行きを伺うしかない。

「巨大迷路だぞ! しかも化け物屋敷って事は、暗がりじゃないか!
お前みたいな迂闊な奴を、そんな所にうろうろさせられないって言ってんだよ!」
「う…迂闊って…なんだよ!」
反発する白雪。でも声に力がない。

「俺は自分に割り当てられた事はきっちりやる。こいつの分までやってやってもいい。
だけどこいつをそんなところに野放しにするのだけは絶対反対だ! 隙が多すぎるんだ、こいつは!」
「ふ…ふざけんなよ! 俺をお荷物みたいに言うな! 俺だって…自分の身ぐらい自分で…守れるんだから…。」
ついに白雪は気弱に視線を逸らした。それを隼人が燃えるような目で睨んでいる。
私はやれやれと肩を竦めた。どうして隼人は素直に白雪の心配が出来ないのだろう。

「あ、あの〜、もしかして…この事態は俺達のせいでしょうか…。」
そう言えば、演劇部もまだいたな。
私は八つ当たりだと十分分かりつつ、間の悪い彼らを睨み付けて、僅かな憂さ晴らしをした。