2004年 11月 11日(木)

潜む、狂気

それから、隼人たちがどうしたのかは分からない。
電話の向こうで隼人の怒鳴り声がしたと思ったら、もう電話自体が切られていたのだから。

私が、いや・・・私達が白雪に会う事が出来たのはその日の夕方だった。
保健室に運ばれた白雪の元に、一日目のアトラクションを終えた私達は走って行った。
驚かさない様にそっとドアを開けて見る。
白雪はベッドに横になって、その隣にぴったりと付き従うように・・・床に膝を付いている隼人と会話をしているようだ。


私は思わず、室内へ入るのを躊躇ってしまった。
それほどまでに、隼人と白雪の間には・・・他人が入り込めない空気が漂っている様に思えたから。
ここで私達が室内に入るのは、どうみても・・・野暮と言うのではないだろうか?


「天音、ご苦労だったな」

どうしよう、と考えていると雪紀が声をかけて来た。
その後ろには直哉と慎吾も揃っている。
その二人に両腕をがっちりと捕まれて、逃げ出せないようにされているのは・・・一巳だ。
殴られたのだろうか、顔は所々色が変わっているし、腫れてもいる。
足を引きずる様にしているのは、腹を蹴られでもしたのだろうか。

良く見れば、雪紀も直哉も慎吾も。
あちこち擦り切れたような傷を作っていた。慎吾の手の甲にある傷などは・・・明らかに刃物で付けられた傷だろう。
一巳の奴・・・ナイフまで、持ち込んでいたのだろうか。
白雪は。本当に無事だったのだろうか?

「天音〜、安心せぇ。白雪は無事や。隼人が、きっちり守ったわ」

私の心の中に気が付いたのだろう。慎吾がそう教えてくれた。
だがその声にはいつもの張りがない。かなり疲れているのだろうな。


「こいつを、どうするつもりですか?」

私は一巳に目を向けた。
今は抵抗する気も起きないのだろうか。下を向いているので、赤い髪に隠れてその表情は伺い知る事が出来ない。

「どうするも、何も」
「白雪に約束させるんだよ。二度と、白雪の前に姿を現さないってな!」

言いざま、雪紀が一巳の赤い髪を掴み、顔を上げさせた。
その瞬間、私は背筋が凍りつくような恐怖を感じた。
・・・・・一巳の目に、狂気が宿っている。まだ、こいつは・・・白雪を諦めては、いない。
これを妄執と言わずして、何と言えばいいのだろうか。

「誰が、そんな事言うかよ。アイツは俺のもんだ。誰にも渡さねぇよ!」

履き捨てるように、一巳が言った。

「まだ、言うか?いい加減にしておかないと、怪我だけじゃ済まなくなるぞ」

どかり、と重たい音を立てて。雪紀の足が、一巳の腹にめり込んだ。
私の後ろで沈黙を守りながら立っていた、咲良と瑞樹が息を飲む音が聞こえた。
そうか・・・この二人は、雪紀のこんな姿を見たことがなかったのだ。もちろん、私とて久々に拝んだ姿だが。

「済まないって、何がだよ。いっそ、俺を殺してみる?そしたらあんた・・・犯罪者、だよなぁ?」

くくっと、喉を鳴らしながら雪紀を見上げる。
雪紀と直哉。慎吾を前にしても・・・何の畏怖も畏敬も、一巳は感じてはいない。
ただこの嵐が過ぎ行くのを、静かに待っているだけだ。
そして、また。
時が満ちれば、白雪をその手に取り戻そうとするに違い無い。