2004年 11月 2日(火)

緊急回避

「うわ〜、何!もう出来たの???」

がらり、と音を立ててドアを開けて、入ってきたのは祥太郎先生だった。
その後ろに雪紀と直哉もいる。
祥太郎先生はひどく、機嫌が良さそうだ。だが、その後ろに立つ雪紀と直哉は・・・まるで。
仁王像のような顔をしているではないか。

ふと、直哉の顔に私の目が釘付けになる。
左の目の際が、少し・・・赤くなっているのは、切れた痕だろうか。
雪紀の唇の端も、気をつけて見なければ分からない程度だが・・・心なしか、赤くなっているように見える。
ふたりの鋭い視線は、隼人へと向けられている。
ほんの少しの火種さえあれば、これは簡単に喧嘩になるだろう雰囲気だ。

ははーん、成る程。
雪紀と直哉の傷痕は、隼人の仕業か。でも、隼人も満身創痍だから、この二人も文句は言えないという訳か。

それでも、祥太郎先生の登場で一瞬和んだ室内の空気が、また凍り付いてしまったではないか。
雪紀、直哉に物凄い目で睨まれながら、当の本人の隼人も負けじと睨み返すのが悪いのだ。
ぴりぴりとした空気を、私まで感じ取ってしまうではないか。
これだから・・・男は、野蛮だなどど言われるんだ。


それでも、これだけ緊張した室内で。どうして咲良と瑞樹は泰然自若としていられるのか?
そして、祥太郎先生もその内の一人だ。

あわや三つ巴の戦いが始まりそうなこの、緊張が漲る室内で。
平気な顔をして、演劇部の持ち込んだ衣装を点検しているではないか。

「これ、これが僕の衣装?!」
「そうですよ、先生のリクエスト通りですからね!」
「ネコ娘、探して貰うの大変だったんですよ〜?」

衣装を片手にきゃっきゃとはしゃいでいる。物凄く、楽しそうだ・・・・・。

「あ、高見君!ねぇ、きみ何を着るの?!」

未だ睨み合いをしている雪紀、直哉。そして隼人をどうしていいのか分からずに立ち尽くしていた白雪を、祥太郎先生が呼んだ。

「おいきなさい、ほら」
「えっ?あ、はいっ・・・」

それでも「どうしていいのか分からない」と言った顔で私を見た白雪を、私は促してやる。
少し、安心した様子で小さく息を吐くと、白雪は咲良達の方へと歩いていった。

「これ?高見君、雪女なんだ!」
「そうですよ、先生も白雪には似合うと思うでしょ?!」
「絶対、俺達!白雪にはこれって、決めていたんですよ!!!」

祥太郎先生達に囲まれて、白雪の表情が和らいだ。
ふいに、先生が私を見ていることに気が付いた。

こちらを見て、ぱちん!と一つ。ウインクをしてくる。



「ねぇねぇ!直哉君!」

よく通る、少し高めの声で祥太郎先生は直哉を呼んだ。

「はい、なんですか?」

今までの睨み合いは何処へやら。直哉はころりと表情を変えて、祥太郎先生の方に向き直るではないか。
答える声まで、いつもと違うぞ?
さっきの仁王は何処へ行った!と、ツッコミを入れてやりたくなるのは、何も私だけのせいではないだろう。

「君は、どんな衣装を着るの?直哉君」
「俺ですか・・・?」

まだ何を着るのか聞かされてないのだろう。直哉が口ごもる。

「あ、直哉先輩はコレです、コレ〜!」

瑞樹が手元の服を掴み上げる。
そして咲良も・・・・・。

「で、これが雪紀さんの衣装です!」

衣装を掴むと、雪紀の元へと走り寄って行く。

雪紀と直哉は、驚くほど・・・恋人には、甘い。
この二人の機転のお陰で、取りあえずの怪獣大戦争は回避されたらしい。
だが、まだまだ。
火種は燻り続けているのだ。ほら、隼人が・・・睨み付けている。