2004年 11月 20日(土)

撒き餌(眉間にシワ付き)

どうしてこう何もかもうまく行かないのだろう。おにょれ。
とりあえずは祥太郎先生だ。そっちを何とかしなくては。
そう思って鼻息を荒くする私の前に、直哉が現れた。

そういえばさっきも、祥太郎先生をみつけられないと言っていたな。
私と同じく、祥太郎先生を探しているのに違いない。

「直哉!」
声を掛けると、直哉はいたずらを見つけられた子供みたいにびくりとした。
振りかえって私の顔を見て、さらにびくびくと背中を竦ませる。
…私の顔が鬼にでも見えるというのだろうか!

「あなたも祥太郎先生を探しているのでしょう?」
「あ…ああ、まあな。」
なんでしょう、白鳳の守護神ともあろう者がそのおどおどした様子。
そんなに祥太郎先生に頭があがらないのだろうか。
…それとも、この場合はそんなに私が恐ろしいのか? 失礼な!

「私もです。どうです、共同戦線を張りませんか?」
「共同戦線?」
「ええ。二人で探せば少しは効率的でしょう。」
こうは言うものの、実のところは直哉の協力など当てにはしていない私だ。
小動物を捕まえるには、撒き餌をするに限る!
直哉には格好の生餌になってもらおう。

と言うことで、直哉を泳がせて、私は少し後ろから様子を見ている。

それにしても…普段は気づかないが、直哉というのは本当に恐れられているのだな。
遠くから直哉の姿を見るだけで、迂回したり廊下の端っこによっていったりする生徒が沢山いる。
あれで結構神経の細やかで優しい奴なのに…雪紀と対比して、その恐ろしさばかりが悪目立ちしているのだろう。
それに…あのやかましい隼人を平気で殴り倒したりするからな。
あの、祥太郎先生にでれでれの様子を、今度公表してやりたい物だ。

とか思っていたら。
来た来た来た来た!
祥太郎先生がひょこひょこと、やってきた!
まんまと撒き餌が利いたようだ!

「祥太郎先生!」
そっと近づいて大きな声を掛ける。
一瞬竦んだところをすばやく捕まえた!

「祥太郎先生、ちょっとお話があります!」
「えーなに? 僕これから直哉君とちょっとお話が…。」
「すぐ済みますから、後にして下さい!」

私の剣幕に驚いたのか、他の生徒が遠巻きに見ている。
見世物になるのは…おもしろくないな。

「祥太郎先生が、野乃香に頼まれた例の物のことで…。」
声を潜めると、祥太郎先生はちょっと首を傾げた。
む!
注意信号だ!

「直哉君…、あのね、僕まだちょっと時間が掛かりそう。」
うっ! 先生の矛先はいきなり直哉に向いた。
上目遣いに見上げる瞳がうるうるしている。
これは…必殺のおねだり攻撃だ!

「あのね…、この間の文化祭でね、僕カメラを持っていたでしょ。
あれは、野乃香ちゃんから頼まれて、国見君のおばあさまから言付かった写真を写していたんだけど…。」
そこで言葉を切ってなぜか俯く。なぜだ!
「国見君、気に入らなかったみたい…。」

な、なにか…何一つ間違ってないのに、罪悪感につまされるのはなぜ?
祥太郎先生はもう一度直哉を見上げて、顎の下で両手を組む。
どうしてその、美少女アイドルみたいな仕草がこんなに似合うんだろう、この人は…。

「国見君のおばあさまにはいつもお世話になっているし、僕、楽しんでいただきたくて、
一生懸命努力したんだけど、やっぱりちょっと国見君には迷惑だったのかも。
楽屋の写真とかも…沢山撮っちゃったから。
だからきっと、国見君、怒っちゃってるんだと思う。
ゴメンナサイしてくるから…。」
先生が潤んだ瞳を瞬いて、もう一度首を傾げた。
はっとした時は遅かった。
直哉の大きな手が、私の腕をがっしと掴んでいる。

「天音! 祥先生は一生懸命だったんだぞ!
おまえはそんなに大人気ない奴だったのか!
先生をそんなしょうもないことで悲しませてどうする!」

しょうもないのは…あなたでしょうに!
一生懸命だから許されるだなんて、そんな小学生みたいな理屈を!
……てゆーか! いつのまにか祥太郎先生がいない!
この…撒き餌のつもりがいつのまにか鳥もちになってしかも私に張り付くとは!

ええいっ! この祥太郎先生の下僕!
使い物にならないったらありゃしない!

それにしても業腹なのは祥太郎先生だ。
どうにかしてとっちめてやらねば。