| 2004年 11月 27日(土) |
メモリースティック争奪
しかし、作戦とは言っても埒もない。
とりあえず慎吾には、祥太郎先生にメモリースティックを持ち出させることを言いつけてある。
どうせ慎吾には複雑な作戦は元より、腹芸さえ期待していない私だ。
やがて、職員室の方から祥太郎先生のおなじみの大きな声が聞こえてきた。
「な〜に? メモリースティック?」
うっ! あのバカ! そんなに直球で言う奴があるか!
「そうなんや〜。天音がどうしても取り返して来い言うて〜。
なあ、センセ、ここはひとつ俺の顔を立てて、渡してくれんやろか〜。」
「どうして〜? 写真ならいくらでも焼き増ししてあげるのに〜。」
「その大元がないと、安心して眠られへんていうのや〜。」
なんだかもう…スローモーな会話の連続を聞いていると、目が回りそうだ。
「えー、だってさあ、あれって国見君だけじゃなくって、他の写真もいっぱい入っているんだもん。
文化祭のときのは野乃香ちゃんのだからお返ししたけど、このあいだの奴は僕の私物だよ。
そんなの返すの、理由がないじゃん。」
おのれ…しのごのと言い逃れを…。
それにしても腹立たしいのは慎吾だ…。あれほど婉曲に、慎重にと言い聞かせたというのに。
真っ向勝負もはなはだしい!
「そこをなんとか! なっ、なっ、祥太郎先生! それくれたらなんでもするから!」
「えー…、だってえ…。」
「お願いしますて!」
私はそっと首を伸ばして、職員室の中を窺った。
祥太郎先生の机のそばの慎吾は、先生を拝み倒している。
祥太郎先生は困ったように俯いてしまっていて、なんだか…可愛そうな気分になってくる。
「あれはさ…、僕がここに赴任した頃からのデータが入ってるんだ。
初めて…生徒会のみんなで写した写真とか…、他にも色々…。」
「そ、それじゃ、天音の写ってるとこだけデリート! それでどないです?
それで、天音が見て、納得したらえやないの。そや。それがええ。」
おっ! 慎吾にしてはまともな意見!
少し不満は残るが、まあ妥当な線だろう。
何はともあれ、この世からあの写真の媒体を抹殺できればそれでいいのだ。
「………他の写真も…見せなきゃいけないの?」
しかし絶好調だった慎吾の舌鋒が止まった。
祥太郎先生が首を傾げて慎吾を見上げている。
ま、まずい。ここからだって分かる! 今先生の大きな目はきっとウルウルで、ほっぺたがピンクに染まって、
そして慎吾はたじたじになっているはずだ!
「あの…、見せるには恥ずかしい写真とかも…あるんだけど…。」
祥太郎先生が見せるに恥ずかしい写真て!!
一体どんな!!!
むしろよっぽど見たい!!!!
「あ…あのあの…あのあのあの…。」
もうだめだ、慎吾にはあれ以上の対応はできない。
私はあきらめて腰を上げることにした。
「祥太郎先生。改めて私からもお願いします。」
もともと私のお願いなのだから、こんな言い様も変かなとは思うが、致し方ない。
そばに近づいてみると、案の定先生はウルウルになっていて、それでもどこか楽しそうな顔をしている。
「国見くん、このあいだの写真、そんなにイヤだったの? どうしてそれを僕に直接言ってくれないの?」
そうきたか。
それではまるで、一方的に私が悪いようだ。
「間を立てたことが悪いなら謝ります。
でも先生にだって見せるに恥ずかしい写真がおありじゃないですか。
それなら私の気持ちも…おわかりでしょう?」
なんだか立場が逆に思えるのだが、努力して静かな言葉をかけると、祥太郎先生はこくんと頷いた。
………こういう可愛い仕草が妙に似合うから、私は祥太郎先生をすぐに許してしまうのだな…。
「でも僕…やっぱりちょっと傷ついたかも。
もう君たちとは2年の付き合いで…なんでも腹を割って話し合える仲だと思っていたのに、こんな遠まわしなやり方…。」
そう言いながら、祥太郎先生はごそごそと机の引出しを探った。
あまり整理されていない引出しに無造作に、目的のメモリースティックが入っている。
「はい…これ。自由にしていいから。
国見くんの写真も僕の大事な宝物だけど、そんなに気に入らないんなら、好きにしていいよ。」
悄然とした様子が、胸を突く。
だから私としたことが、ついほだされて言ってしまったのだ。
「替わりになにかいたします…」なんてことを!
「ほんと〜!」
はっと息を飲んだがもう遅い。
祥太郎先生はさっきとは打って変わった楽しそうな顔で私を見上げている。
「あのね…、クリスマスには生徒会のみんなで集まろうって言っているんだけど、そこで余興をやって欲しいんだ!」
「余興…ですか。」
その顔では、演目まで決まっているに違いない。
「うん! 国見君にはぜひ、僕と一緒に『マツケンサンバ』を踊って欲しいな〜!」
言うに事欠いてマツケンサンバ…。
慎吾…そこでそんなに笑うな…。
しかし、目的のメモリースティックは回収できたのだ。それでよしと…しなければ…ならないな…。
「楽しみだね〜、クリスマス。
時間もたっぷりあるから、一生懸命練習しようね〜。」
先生…先生はもしかして私のことが…キライでしょう?
「デジカメも持っていこう! また変な写真取ると怒られちゃうかな〜。
買ったばっかりだから、楽しくって、ついいろいろ撮っちゃうんだよね〜。
ほらほら、望遠とか、機能が凄いんだよ!」
ちょっと待て。
買ったばかりと…おっしゃいませんでしたか?
たばかられた!
断言してもいい。メモリースティックには、私の写真だけだ! おのれ…!
また変な約束を取り付けられてしまった…。