2004年 11月 7日(日)

配置図

そんな緊張感の中…。

「天音〜♪」
さも嬉しそうにウホウホとやってきたのは、全身灰色に塗りたくった慎吾。
いや、フランケンの衣装はシャツとズボンがあるのだから、手足と顔さえ灰色に塗ればいいのだ。
それなのに慎吾の奴は臍の穴まで灰色に塗っている。

「どや! フランケンシュタインや! 愛しい天音の声にしか動かされない巨人やで!」
おや…。キンニクにしてはよく研究しているようだ。
そう言えば、他の面々はどうしたのだろう。私は渡された地図を片手に、開場前の迷路をぐるりと回ってみた。

入り口付近にちゃっかり陣取っているのは瑞樹。怖がりの瑞樹には、この出口に程近いポジションは最適なのだろう。そこに、咲良がいた。
楽しそうに二人で話しこんでいる。
咲良は蓑を被り、杖を持っている。瑞樹は灰色の着物。
子泣爺と砂かけ婆と言うことだが、とてもそんなふうには見えない。どっちかっていうと子狸と子狐のばかしあいのようだ。

ところで、スタンプを集めるとなんだと言うのだろう? 咲良に聞いてみることにした。
「ああ、商品を出そうと思っています。」
嫌な予感…。
「天音さんとのツーショット撮影…。」
「却下!」
そんなことかと思った。

「なんで私限定なんです。他の誰だっていいじゃありませんか!」
「だって、天音さんが一番人気があるんですよ。めったに人目に触れないから希少価値があるって…。」
私は珍獣ですか!
「あ、でも、白雪も結構人気あるよ。あいつもあんまり人前に出るほうじゃないから。」
そう、白雪の安全を図るために、私はこんな見回りみたいなことをやっているのだ。
本題に戻ろう。

少し進んだところが広くなっていて、そこは慎吾のゾーン。そこまで行くと、フランケンシュタインに追いまわされる趣向のようだ。
これは絶対慎吾が考えたに違いない。
今も柱の影から慎吾がうずうずした顔を覗かせている。近寄ったら追いかけるつもりなのだろう。
軽く無視して次へ進む。

いきなり洋館が現れて、迷路はその中に入るようになっている。
中に入ると、雪紀がうろうろしていた。真っ黒なタキシードと、尖った牙の入れ歯。どうやらドラキュラらしい。
「この館の中があなたのエリアなんですか。」
雪紀はふがふが入れ歯を動かしていたが、やがてこっくりと頷いた。どうやら入れ歯が合わなくて喋れないらしい。
「くれぐれも咲良を引っ張りこんでどうこうなんて不埒な真似は止めてくださいね。
仮にもここは学園の中で、行事の最中なんですからね!」
釘をさしておくと、雪紀は渋い顔になって頷いた。どうやらやっぱりその気マンマンだったらしい。

「ところで、直哉はどうしました? 彼もドラキュラでしょう?」
「………あいつは流しなんだそうだ。あちこち歩き回って適当に客を驚かせるんだと。」
流しのスタッフは他にも、咲良、祥太郎先生。
なるほど、これらを見付けるのが難易度が高いというわけか。
「そのために、奴ようにこの迷路、至るところに抜け道があるんだぜ?」
本当だ。この赤いライン…これが全て抜け道…。
もしこの迷路の設計図を第三者が見ることができたなら、この迷路はかっこうの抜け道になってしまう…。

雪紀を通りすぎてしばらく言ったところが私の井戸。
本当は吊るすなどと言う案もあったのだが、私が断固反対した。
どうして私一人がそんなおもろいことをしないと行けないのだ、この私が!
しかし、そのため井戸のふちにしゃがみこんで、客が来るたび屈伸運動をしなければならないことになった。おのれ…!

そしてもう少しいくと、、迷路の壁が白くなってきて、雪道ゾーンに変わる。
まず、隼人のいる起伏の激しい通路。そして、白雪のいる、山小屋風の建物。
私は少し安心した。白雪の位置から出口はすぐだし、隼人もそのへんをうろうろしているところだ。
いざとなったら自力で逃げることも、隼人に助けを求めることも可能だろう。

私は真っ白な着物を着て、俯いている白雪の方へ行った。
「白雪…、もし、なにか不審な事があったら、大声を上げるんですよ。私はもちろん、隼人がすっ飛んでいきます。
そして、まっすぐ出口に逃げるんですよ。空意地を張っても、なにかあったら遅いんですから。」
「なにか…なんて。大丈夫ですよ、ちゃんと助けを呼びます。」
どうだろうか。白雪の真っ白な顔は、違った決意を思わせる顔だ。

やっぱりここは、お節介と言われても、雪紀と直哉に警告して協力を仰ぐできだと思いなおし、私はきびすを返した。
すると突然そこに、誰かが突っ込んできた。
「いったーい、ごめ…、あっ、なあんだ、国見くん。」
短い和服から膝を出した祥太郎先生が突っ込んできたのだ。
まるで小坊主のような扮装に、愛らしい猫耳…。これは一体…。
「ネコ娘だよ〜。ほんとはこんな猫耳カチューシャいらないんだけど、これがないと座敷童に見えるって、みんなが言うんだよ!
酷いよね! 座敷童なんてまるで子供じゃん!」
いや…猫娘だって立派に子供だと思う…。
そして私は、そばからこっちの様子を伺っている直哉を見つけた。
…祥太郎先生をみつけたら、漏れなく直哉が着いてくる?
いったいなんなんだか。
しかし祥太郎先生に関わっている間に、直哉と雪紀に警告を与える時間がなくなってしまった。

そうこうしているうちに、始まりのベルが鳴り、照明が落ちて、足元だけが照らされるようになった。
私たちは慌てて持ち場に帰る。そして、自分の持ち場から、白雪がまったく見えないことに気がついた。
外で待っていたのだろうか? 第一番の客が現れておずおずと歩き始めたようだ。時間で管理されている入り口の向こうには沢山の人が長蛇の列をつくっている。

私は嫌な予感に身を震わせながら、入り口の方向を睨みつけていた。