2004年 12月 13日(月)

空元気

結納といっても、そんなに堅苦しい行事にはなりそうもないと悟って以来、だいぶ気が楽になった。
恐らくは綺麗に着飾らせた野々香と私を並ばせて、一通り行事をこなした後、主に野々香を中心に写真でも取って、その場は終わるのだろう。
しかし私にはまだ頭の痛い問題があるのだ。

昨日おとといと野々香に引っ掻き回されたおかげで、テスト勉強は思ったようにははかどらなかったが、それでも一応の手応えを感じながら教室を後にする。
案の定、廊下にはものほしそうな表情の慎吾がいる。最善を尽くしなさいと口を酸っぱくして言ってあるから、私のところに懐いてきたくてもこられないらしい。
私から声を掛ける事にした。

「慎吾、お疲れ様でした。
どうでした? テストの出来は?」
「や、今回は数学がええ感じやねん。天音のおかげや。」
さも嬉しそうに答える。大きな尻尾が振りまわされているのが見えるようだ。

「ところで、ちょっとお話があるんですけど、時間ありますか?」
「あるある! 天音の為ならいつでもあるで!」
ますます大きく尻尾が振られて、なんの疑いもなく食らいついてくる。
結納の話なんかしたら…ベソベソになってしまうんじゃなかろうな。

私は慎吾を引っ張って人気のないところを探した。
広大な我が校には、二人きりになれる場所なんていくらでもあるのだ。

クラブハウスの裏には、たくさんの樹木が生い茂り、ちょっとした林になっている。
私はそこに慎吾を引っ張り込んだ。

「天音、こここんな人気のないところに誘い込んで、一体何を…。」
何をよからぬ事を想像して胸を膨らませているのか、慎吾の鼻息が荒くなっている。
がっついて唇をムチューと突き出すのを、掌一つでいなして、私は慎吾を落ち着かせた。

「実は、冬休みの事なんですけど。」
「忙しいんやろ。毎年のことやん。」
私にその気がないのを察して、つまらなそうに鼻か何かほじっている。やめなさいって!

「そうですけど、今年は3が日が過ぎても、暇になりそうもありません。」
鼻の穴に指を深く突っ込んだところを叩いてやったら、泣きながら蹲ってしまった。自業自得だ!
「なんで〜? いつもは遅目の初詣に行って、それから楽しい姫はじめが…。」
そんな事しか頭にないのだろうか?
「あなたも覚えているでしょう? 野々香とのお話。」
「あ? あ、ああ…。」
さすがに真剣な顔付きになった。

「急なお話なんですが、1月5日に結納をすることになりました。」
「ん? ゆいのう? ふ、ふーん…。」
…こいつ絶対分かってないな。

「ですから恐らく、冬休みは全然あなたに会えません。
野々香のお友達の皐月ちゃんは、冬休みにスキー合宿に行くそうですよ。
あなたもせっかくだからどこかにおいでなさいな。雪紀や直哉を誘えば、お手頃に行けるんじゃありませんか?」
本当はそんな費用くらい持ってあげてもいいけれども、それではきっと慎吾は怒るに違いない。

「ん…そっか、まあ、考えとくわ。天音が一緒に行かへんなら、行ってもきっと、楽しい事ないと思うし。」
慎吾はなんだか急にしゅんとしてしまった。
胸が痛むが…これは慎吾も承知の上の話なのだ。今更どうしようもない。

「さあ、慎吾はあと、試験も1日だけでしょう?
頑張っていい成績を見せて下さいね。」
空元気を出して、慎吾の広い背中を叩いた。