2004年 12月 14日(火)

共同戦線?

「何だ、天音。こんな所に居たのか」

私が図書館にいると珍しく、直哉がやってきた。
私の名前を呼んで来たという事は、私に用事があるという事と考えていいのだろう。

「何ですか、珍しい」

私は手元に広げた参考書から目を離さずに、そう口だけで答えた。
家に帰っても気分が落ち着かないので、こうしてここで勉強をする事にしたのだ。
本当は特別、こんな風に勉強などしなくても。普通以上には出来る事は分かっている。
だが、何かをしていないとどうにもこうにも滅入ってしまうのだ、おばあさまと母のせいで。
人の顔を見るたびに「結納、結納」と言うし。「あのお着物よりもやはり、こちらのお着物の方が・・・」なんて言い出す始末。
私は男だと言う事を、理解していらっしゃるのだろうか。
父は父で、おばあさまや母の顔色を柱の影からこっそりと伺っている始末。
面と向かって言いたい事を言えないなんて、私はこの年になるまで知らなかったぞ。

昨日などは、それこそ。
『天音、天音』と。
怪談の幽霊ももかくや、と言った様子で灰らの影から私を手招きしたと思ったら。
お稽古場の片隅に連れて行かれて(だから、どうして片隅なのか分からないが)、座らされて。

「天音、本当にいいのか?」

と。今更ながらに問いただされてしまったのだ。
良いも悪いも、どうしろというのだ。

「あのですね、大変失礼かとは思いますが。今更そんな事を行っているのはお父さんくらいんの、ものですよ」

半分投げやりに、そう答えた私を見る父の目はとても悲しそうだった。

「でもな、天音。結納とか結婚とか、こんな風に決めていいもんじゃ、ないだろう?」
「それはそうだと思いますが」
「それに、慎吾くんの事だってあるし。どうしても嫌なら、家を出て行くという手段だって、あるんだ」
勿論、私は天音の見方だぞ!

父の其の言葉は嬉しかったが、やはり。こういう所が、お坊ちゃんというか、箱入りと言うのか。
おばあさまや母に、良い様に転がされるのだろうな、と思う。

「大丈夫、です。私も慎吾も納得していますから」

そう答える以外、私に何が出来るというのだ。


「おい、天音?」
「ああ、直哉・・・済みませんでしたね」

どうやら私は直哉を前にして、昨日の記憶に浸っていたらしい。

「で?お忙しいあなたが、わざわざ私に何の用事が?」

少々の嫌味を込めてそう言ってやる。最近の私は祥太郎先生には何をしても叶わないので、その鬱憤を直哉で晴らすことにしたのだ。
だってこの方が建設的じゃ、ないか。
少なくとも直哉は、私の言葉で多少は傷付くし動揺も、する。
咲良や瑞樹相手にこんな事をするつもりは毛頭ないし、雪紀は後がやっかいだ。
隼人は・・・折角白雪との間が上手く行っているらしいのに、苛めては可哀想な気もする。
なので、こいつが適任なのだ。

「いや、用事っていうか、まぁ」
「・・・何なんです?」
「慎吾の、事なんだが」
「ええ・・・・・・・・・」
「もしだったら、正月の間くらい、俺たちが相手してやっても、いいぞ」

何処と無く照れた様子で、直哉が横を向きながらそう言った。

「直哉・・・・・・・・・」
「や、あんまり慎吾の元気がないから、な。その、少しばかり聞いてしまったというか・・・」

こんな風に口ごもる直哉は珍しい。

「慎吾、そんなに元気がなかったですか?」
「ああ・・・・・・・・・まぁ、な」
「そうですか」

元気が無い慎吾、なんて。普段は考える事もできないその姿が私の脳裏に浮かんでは消える。
可哀想だとは思うが、これは私も慎吾も納得の上での事なのだ。
ただ、あの時は・・・・・・・・・こんな風に現実として受け止めてはいなかったのだろうが。

「お前のさ、家のこととか。俺らには想像もつかない事も沢山、あるんだろうけど」
「いいえ、あなたの所や雪紀の所と変わらないですよ?」

直哉の言葉が嬉しくて、つい軽口を叩いてしまう。

「・・・・・・雪紀の所は、おかしいからな!」
「はい?」
「あそこは、ほら。佐伯さんは雪紀がよければそれで良いって人だからな、咲良に女装までさせてパーティーに出させたらしいぞ?」
「そうなんですか?!」
初耳だ。

「まぁ、さ。正月はお前も色々と忙しい事と思うし。慎吾は俺や雪紀が構ってやるから安心しろ」

そう言って、私の返事も聞かずに直哉は図書室を後にした。
しかし、驚いたな。
ここで雪紀の名前を聞くなんて。直哉はともかく、雪紀までが私と慎吾の事を気に掛けていたとは思いも寄らなかった。

「ありがとう、ございます・・・・・・・・・」

すっかり姿の見えなくなった直哉に、私は感謝の言葉を口にした。
ああ、もう。こんな青臭い青春ドラマみたいな真似をされたら、泣きそうになるじゃありませんか・・・・・・・・・。