2004年 12月 18日(土)

パーティー その1

テストもすっかり終わったと言うのに、慎吾が遊びにこない。

私はおもしろくもなく、部屋に閉じこもって読書をしていた。ここのところのごたごたで、本がたまってしまったし、少し静かに一人で考えたかったのだ。
居間に顔を出すと、来るお正月と、私の結納の準備が着々と進められている。
なぜか住み込みのお弟子さんたちまでそわそわしていて、身の置き所のない気分になるのだ。
国見家の久しぶりの吉事であるのだ。浮かれ気分になっても仕方ないだろう。

そうして少しばかりふてくされた気分で閉じこもっていたら、おばあさまが私を呼びに来られた。瑞樹が来ていると言う。
部屋までやってきた瑞樹の紅潮した頬を見て、初めて私は思い出した。

そういえば、大学部と合同のパーティーに誘われていたっけ…。

出る気…しないな。

「あの…瑞樹…。」
「天音さんたら、早くしたくして下さいよう。せっかくカノンが、みんなを招待してくれたんだから。」
そういえば、カノンの招待だったか。
ここで断ると…、瑞樹を泣かせてしまうかもしれないな。

「あの…ちょっとごたごたしていたものですから、なんにも用意してないんですよ?
プレゼントは愚か、洋服も…。」
「制服でいいんですよ。僕も制服だし。」
瑞樹はクリスマスらしい、ヒイラギと赤いリボンのコサージュを持って待ち構えている。
それさえつければ準備万端なのか…。
私はあきらめて腰を上げた。


一端いつもの生徒会室で集まってから、私たちは隣接する大学部の講堂に移動した。
チャペルの神父さんがちゃんと来ていて、曲がりなりにもクリスマスミサを行った後、どんちゃん騒ぎが始まった。
どんな集まりなのか知らないが、女子部の学生たちも来ているようだ。

私たちが歩いていると、辺りがざわめいている。
「おおっ! 高等部のきれいどころだ!」
やれやれ…。雪紀や直哉さえ、大学生たちの前ではきれいどころにされてしまうらしい。
私はちょっと呆れてカノンを睨んだ。
大学生になって、ますます垢抜けた感じのカノンは、ちょっと苦笑いして肩をすくめた。

「そう怖い顔をしないでよ、天音。君たちは有名すぎるんだよ。
君たちを無料で招待できるのは、君たちが客寄せパンダになってくれたおかげなんだから。」
そんなことだと思った。

ところで…咲良に引っ張られた慎吾もちゃんと参加している。
それが、いつになく悄然としているのだ。
あんまりじめじめしているので、咲良や白雪君も恐れをなして近づけないほどだ。
いつだったか祥太郎先生が言っていたように、やっぱりこいつは引きずり大魔人らしい。
今だって、私の顔を正面から見やしない。

これでは、私がいって聞かせたいことも言えやしない。

そうこうしているうちに、団体がほぐれて、私は慎吾と取り残された。
慎吾は居心地悪そうにもじもじしながら私の方を見ている。
いい機会だ。今度の結納のことについて、きっちり話をしておかねば!と近づきかけたとき、背後から声がかけられた。

「天音ちゃ〜ん、来てたんだ〜!」

あの甘ったれた話ぶりは…野乃香だ。

野乃香はいつもみたいに綿菓子みたいな甘ったるい笑顔で近づいてきた。
腕にはしっかり皐月嬢の腕を絡ませている。これもいつもの通り。
野乃香が綿菓子みたいな少女なら、皐月嬢は柑橘系のフルーツみたいな少女だ。甘さより、爽やかさが先に立つ。
しかし今日は、その顔がさらにきりりと引き締まっている。
長身の彼女は、私を真正面からキッと見据えた。

「天音さん、お久しぶりです。」
「ええ、本当に。あなたもお元気そうで。」

なんだか複雑な人間関係だ。
私は許婚の愛人と対峙していることになるんだな。

「一度ちゃんとご挨拶したいと思っていました。いつも野乃香がお世話になっております。」
「こちらこそ。慎吾をご紹介しますよ。」
「いえ、それは後で。私は天音さんに言っておきたいことがあるんです。」

なんだか穏やかじゃないな。
「んも〜。皐月ちゃんたら、なにその喧嘩腰〜!」
野乃香さえ焦っているではないか。

「野乃香は黙っていて。私は天音さんにご挨拶しておきたいんだから。」

皐月嬢は静かに野乃香を引き離すと、もう一度私を真正面から見据えた。

「今回のことは、おめでとうございます。お二人が良いご縁に恵まれましたことを、まずお祝い申し上げます。」
結納のことを言っているらしい。そこまで言って、皐月上はきゅっと唇をかみ締めた。

「でも私は、あなたもご承知のとおり、野乃香をあきらめるつもりはありません。
本当は、野乃香があなたに所属する者になることなんて、全力をあげて邪魔したいんです。
でも、野乃香にとっての久遠院家は本当に大事なものだから、私は野乃香の幸せのためにお二人を祝します。
でも、それだけです。私は野乃香を渡すつもりはありませんから。例え野乃香が、国見野乃香になっても。
それだけ、言っておきたかったんです。」

大きくてきつい目が、キラキラと光を孕んでいく。
なんてきれいな瞳だろうと、私はしばし見とれていた。
きれいなポニーテールに結い上げられた長い髪がすっと下げられて、皐月嬢が私に向かって頭を下げているのに気づき、私は慌ててまねをした。

「大丈夫ですよ。私たちのことは、両家の承知の上です。もちろん私たちもそのつもりです。
あなたとはこれからも、野乃香を通じて良いお友達でありつづけられるように、努力していくつもりです。
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。」

胸の中に、一陣の風が吹き抜けていったようだ。

私の可愛い筋肉おばかは、この潔い少女の姿を、どう見ていたのだろうか。