| 2004年 12月 25日(土) |
大掃除
昨日は朝から大変だった。
クリスマス会は夕方から始まると言う。それで私はゆっくり朝寝を楽しんでいた。
なにしろ年末は事のほか忙しくなる我が家。昨日だって私は、公演で家を空けている父に成り代わって色々大変だったのだ。
すでに私が任された分の、マツケンサンバの衣装も揃っているとなれば、ゆっくり眠ってなんの悪いことがあろう。
それなのに、まだ早いうちから、なんだか辺りが騒がしいのだ。
「天音さん、天音さん!」
おばあさまが気ぜわしげに呼びにいらした。私は寝起きのぐちゃぐちゃの頭のまま、首だけをもたげた。
「まあ、天音さんったら、この忙しいのにまだお休みですの? 早く起きて朝ご飯をお済ませなさい。」
「まだ…いいじゃありませんか。昨日だって遅くまでお父さんの年賀状の代筆で…私は眠いんです。」
「そんなことをおっしゃって。みなさんもうお揃いですのよ。」
…まて。なんでもう?
「あら、言わなかったかしら。場所を提供すると申し上げたら、祥太郎先生がその代わりに大掃除をしてくださるとおっしゃって。
みなさんもうとっくにお掃除を始められていますのよ。」
私はがばりと起き上がった。
低血圧がどうこう言う問題じゃない。
なんで私のあずかり知らないところでこう物事が進んでいくんだ!
慌てて身支度を整えたが、やはり時間が掛かった。
演舞場に駆けこむと、そこには見覚えのある面々が…お弟子さんたちから借りたのだろうか、可愛らしいエプロンをつけて掃除の真っ最中だ。
「あっ、国見君、おはよ〜。お寝坊だねえ。」
一際ピンクのエプロンの似合う祥太郎先生が、はたきを降りまわしながら振り向いた。
大して労働しているとも見えないのに、すでに鼻の頭に煤がついているのは…どうして?
「祥太郎先生…お掃除なんて一言もおっしゃらなかったじゃありませんか。こんなことならちゃんと早起きして…。」
「いいのいいの、君もオーナーなんだから。
今時これだけの場所を借りたらいくらすると思ってるの? これはほんのささやかなお礼。」
祥太郎先生はにっこり笑う。そのくせ自分は本当にはたきを降りまわしているだけなのだ。
私は背後からこっそりわたたちのほうを見ている直哉を見つけた。
「直哉…これは一体…。」
「…祥先生が一端言い出したことを引っ込めるわけがないだろう。」
「だって、祥太郎先生だって、ご自分のお宅のお掃除とかあるでしょうに。」
「ああ、それならどうせ俺がやるから。」
直哉はあきらめたように軽く笑った。
「知ってるか? あのひとの掃除は、いきなりワックスをぶちまけるんだ。
せめて掃除機を…いや、その前に、床に散らばっているゴミを片付けてからにしてくれって俺が拝むようにして頼んでもだめなんだ。どうせやるならいっぺんに片付けるのがいいって。
そのくせ本がだめになったとか、あれがなくなった、これが壊れたって、全部俺のせいなんだぜ。
そんなことなら最初から最後まで俺がやる方が…どんだけ手間がかからないことか。」
脱力したように言うが…顔がにやついているぞ。
どうやら直哉はそれで幸せらしい。
さては…Mか?
直哉から離れると、いきなり雑巾が飛んできた。
すんでで受けとめると、そこにはモップを振りかざした隼人がいる。
「天音さん、遅いっ! 来たんなら窓枠でも拭けよ!
俺らこっちの端からワックスかけてるんだから、こっちに来るなよ!」
「こら、隼人っ! 天音先輩はここを提供してくれたんだから、そんな…。」
「提供もクソもあるか! 時間までに終わらせて、飾り付けしなきゃいけないんだから、天音さんだって猫の手よりはましだろ!」
………むか。
相変わらず隼人はキャンキャンと元気がいい。
隼人を遠巻きに眺めていると、反対側の端から煙が…出ている?
そっちに行ってみると、ぼそぼそと話し声がする。
舞台の裾に誰かがいるようだ。
覗いてみると、咲良と雪紀だった。
「雪紀さあん、お掃除してくださいよう。」
「ふん、なんで俺がそんなこと…。」
踏ん反り返って煙草を吹かしている雪紀のそばで、咲良が泣きそうになっている。
直哉ならともかく、雪紀が掃除なんか喜んで参加するわけないと思っていたが…案の定。
それにしても…姉さんかぶりがばっちり似合っているな…雪紀。
慎吾はさも楽しそうに雑巾レースをやっているし、瑞樹はおばあさまのわきで、真剣な表情でお花を活けるのを見つめている。
やれやれ、掃除一つをとっても個性が出るものだ。
私はあきらめて雪紀の隣に座りこんだ。
肉体労働は筋肉たちに任せておけばいいのだ。
それからほどなくして掃除は終わり、隼人の奮闘のかいあって、演舞場の中は綺麗に飾り付けられた。
おばあさまが忙しく立ち働いて、お料理を運んできてくださる。
クリスマスを意識したのか、おばあさまにしては珍しい洋風のメニューが並ぶ。もちろん、お得意の散らし寿司やらお煮付やらもある。
しかし…クリスマスには肝心な物がない。
そう、ケーキがないのだ。用意周到なおばあさまがよもや忘れられるはずもない。
すると…ケーキが届いた。野乃香と皐月嬢込みで。
「野乃香、今日の為に一生懸命焼いたの〜。後でみんなで食べようね〜。」
巨大なケーキを抱えて、野乃香は得意そうだ…が。
野乃香も…参加するつもりなのか。
なんだか頭が痛くなってきた。
「それじゃ始めようか〜。」
頬を紅潮させた祥太郎先生の陽気な声。
クラッカーが勢いよく鳴って、パーティーは始まった。