2004年 12月 30日(木)

意地悪

「まあ、私、全然出すカードがありませんわ。」
おばあさまが不満そうに声を上げられた。
ぐるりと辺りを見まわして…私に一瞬恨みがましい目を向けられたが、私がサッと視線を逸らしてしまったので、祥太郎先生を見つめる。
「ねえ、祥太郎先生、ルールを教えていただけませんかしら。」
身軽に腰を上げられると、無理やり祥太郎先生の隣に割り込んでしまわれた。

「いいですよ。ちょっと拝見。」
祥太郎先生は、私たちに接する時とは大違いの様子で、おばあさまのカードを広げている。
「あー、これは本当に出しづらいですねえ。でも、1かキングが出たら、今度は反対の側から並べられますから、逆転はありですよ。」
「まあ、なんだかそんな難しいルールは分かりませんわ。祥太郎先生、やってくださいません?」
「いいですよ。それじゃ、頑張って勝ちましょうね。」

どうやらおばあさまのところには、カスカードばかり行ったらしい。
それにしても、祥太郎先生の手持ちの札が増えると言うのは、先生にとって有利なのか不利なのか?
いや…今のターゲットは直哉なのだ。祥太郎先生はとりあえず置いておこう。

直哉は…と見ると、先ほどまでのポーカーフェイスがうそのように、眉間に皺が寄っている。
おばあさまにまで焼餅を焼いているのか…案外独占欲の強い奴だ。
いや…出すカードがなくて、困っているのか?

とかなんとか、気を散らしていると…野乃香が歓声を上げた。
「あ〜、よかったあ〜。ハートの6が出なくてこまってたんだ〜。」
ハートの6…私ははっとして振り向いた。
それは…慎吾の手元にあった、私たちのとっときの札ではないか!

「慎吾…! なんでそんなにとっとと6を出しちゃうんです!」
「えー、だって、ほかの出すもんないし〜!」
「ハートはそれより若い数字がないんですから、それを止めとけばほかの人に意地悪ができるでしょうに! 何の為にパスがあると思っているんです!」
「えー! 天音のいけず〜! 俺そんな意地悪ちゃうもん。」

…この筋肉バカ…!
今さっき、直哉を蹴落とそうと誓い合ったばかりだと言うのに!

案の定だ。直哉の眉間の皺が緩むと、すぐに4が出された。野乃香の後だ。
私はぎりぎり歯軋りした。後はこの、私の持っているハートの8を止める以外ない!
ところが…ふと気がつくと、直哉の手持ちはあと2枚。私がパスを掛けている間に、いつのまにか順当にカードを出しているらしい。
祥太郎先生のところは…おばあさまの分は律儀に減っているが、先生の分はあと3枚残っている。
いざとなったらこっちでもいいな。

「ねえ! 国見君、もしかして止めてるでしょ。悪い顔してる〜。」
「まあ、その止めていると言うのはなんですの?」

まずい…祥太郎先生の脇からしきりに手の中を覗きこんでいたおばあさまがキッと目を吊り上げられた。
「あ、いいんですよ〜、ゲームですから、これは作戦なんです。でも確かにいらいらさせられちゃいますよね〜。」
祥太郎先生…それはちっともフォローになってませんって。
「天音さん…! あなたはそんなに底意地の悪い子だったんですか?」
底意地って…そんなおばあさま、大げさな…。

それはいいとして…なんでおまえまで一緒になってはやし立てている…慎吾!

「いいんですよ。先生もおっしゃっているでしょう。これは作戦なんです。こういうのが一人いたほうが、ゲームも盛りあがるんです。」
もうヤケである。自ら止めていることを認めてしまったのでは、ちっとも意地悪にならないのだが、致し方ない。
私が8を止めていることによって、イライラしていたのであろう雪紀と皐月嬢がぴくりと眉を震わせた。

「そうそう、ゲームですから。それにね、そういう意地悪をするのには、ちゃんとリスクを覚悟しないといけないんですよ〜。ほら、ねっ。」
「あ…っ!」
ハートの1を出されてしまった…。すると次のハートはキングから…?
今まで大事に持っていた8が…仇になってしまった…。
「んで、ハートのキングは僕が持っているんです。あとハートはないから、僕はこれを出さないんだ〜。」
「まあ、祥太郎先生、なかなか作戦がお上手ですこと〜。」
おばあさま…私なら底意地が悪くて、祥太郎先生ならお上手って言うのは…一体?

多少のブーイングもあったものの、祥太郎先生は宣言通りハートのキングを出さず、6位で上がった。
私は…ハートの8のせいで…びりだった…。

「ほうらな、天音。意地悪するんはみいんな自分に戻って来るんやで?」
この…裏切り者の単純筋肉!!!

そうして私は、これもなぜかおばあさまの発案により、同じくババ抜きでびりだった隼人と、二人羽織をさせられた。
お汁粉を鼻から飲まされて…死ぬかと思った…。

最後の最後に、ようやく野乃香お手製のクリスマスケーキを頂いた。
野乃香の洋菓子作りはプロ急の腕前で、普段なら私は絶対逃さないのだけれども…お汁粉のあずきのカスがまだ鼻の奥に残っているようで…どうしても食べられなかった。

今回のクリスマス会も…結局祥太郎先生にしてやられてしまった…しかも正々堂々と…。
瑞樹が持ちこんだツリーの電飾がいやににじんで見えた。