2004年 12月 31日(金)

大晦日

あのクリスマス会が昨日のことの様に思えるくらい(笑)あっという間に日がすぎて、今日はすでに大晦日だ。
テレビでは今、さだまさしが妙に深刻な歌を歌っていたところだ。

今日は家庭内にちょっとした波風が立った。
いつもは本当の親子のように仲良しの、おばあさまと母との間に意見の食い違いがあったのだ。
それが私が原因と言うのが…なんとも申し訳ない感じなのだが。

私のうちはいつでも暮からお正月にかけて戦場のような慌しさになる。
大晦日の今日も、大掃除の総仕上げとか、おせち料理の用意とかで、おばあさまと母はてんてこ舞いをしていた。
忙しくて猫の手も借りたい慌しさなのは分かっているが、おばあさまは常日頃、お掃除もお料理も女性の管轄だと言って譲られない。
だから私はうっかり油断してしまったのだ。

目を覚ますと、11時を回っていた。外は寒くて布団の中が恋しかったので、2度寝をしてしまったのがまずかったのだ。
恐る恐る起き出して見ると、案の定もう女性陣が総出で、戦場のような慌しさだ。
そこへこっそり顔を出した私を、母が目ざとく見つけた。

「天音さん! いくらお休みだと言っても、のんびりし過ぎではありませんか?
さあさあ、お雑巾を持って。ご自分のお部屋くらいご自分でお掃除なさい。皆さんお忙しいんですから。」
「あら、百合子さん、天音さんにまでお掃除をさせるんですの?」
私が返事をするより早く、おばあさまが声を掛けられた。

まずい…!
二人とも、この忙しさに殺気立っている…!

「天音さんは大事な国見の跡取ですよ。お掃除なんて私がいたしますわ。」
「おかあさま、お言葉はありがたいのですけれども、私は天音さんにも身の回りのことくらいできるようになって欲しいんです。
お掃除や、できればちょっとしたお料理も私は仕込みたいと思っているんですのよ。」
「まあ! 国見の跡取をお台所に立たせるおつもり? そんな恥ずかしいことでは、国見の女が笑われるんですのよ。」
「いいえ、おかあさま。今は女性も男性と対等に働く時代です。身の回りのこと一つできない男など、すぐに捨てられるのが関の山ですわ。」
「あら! 野乃香ちゃんは天音さんを捨てたりなさいませんことよ!」

な…なにか、こんな深刻な喧嘩は生まれて初めて見たような…。

座敷に、居心地悪そうに座らされている父の姿が見える。
父はあれでわりとマメな方だ。いつもこの年末からお正月にかけて、当主として祭り上げられるのが気が重くて仕方ないとこぼしている。
その父が慌てて腰を上げた。ここに父まで加わってはどんな騒ぎになることか。
それこそ、国見の家の恥さらしではないか…! 私は慌てて二人に口を挟んだ。

「まあまあ、お二人とも。お掃除くらいでそんな。
私はいつも、お二人のむつまじい様子を誇りに思っているのですから、どうぞ私に免じてお気持ちを沈めてください。
そんなにお怒りになりますと、皺が増えますよ。」

言ったとたんに二人がきいっと振り向いた。
…口が滑った…!

「なにがしわくちゃ婆です! 大体天音さんがいつまでもお寝坊していられるのがいけないんです!」
「お母さまのおっしゃる通りですよ! 毎年この辺りはどんなに忙しいか、天音さんだってご存知でしょうに!」
「それを承知でこんなお寝坊! 国見の当主としての自覚がおありですか!」
「まったくです! 私の教育方針がいけなかったのかしら! おかあさま、どういたしましょう。」
「いいえ、百合子さん、全ては天音さんの心持の問題ですことよ!」

………さっきまであんなに揉めていたくせに…なんだその結束力は…。
げに恐ろしきは女心…。

おばあさまと母は、ひとしきり私を叱りつけられると、満足したのかそれぞれの持ち場に戻って行かれた。
私は朝ご飯も頂けずに呆然と立ち尽くすしかなかった。
気がつくと父が傍まで来ていた。私の肩をぽんぽん叩いてうんうん頷いている。

「天音…子供だ子供だと思っていたが、おまえも大きくなった物だ。
女どもの扱いがあんなにうまくなっているとはな。
とはいえ…お互い辛い立場だなあ。」

我が家の円満の理由が…初めて分かった!

「おまえのその女あしらいのうまさがあれば、野乃香ちゃんとの結婚生活もきっと円満に進む。
お父さんが保証してやるぞ。」

そんな保証…ほしくないです!

なんと言うか…年の瀬に来て、大きく成長した気分だ。
もっとも、確かにおばあさまと母との仲がよいほうが…私にとっても具合がいいのだが。
国見家の当主はいろんな意味で…大変なのだった。