2004年 12月 6日(月)

VIRUS

昨日は本当に散々な目に合ったぞ。
あんな大きな犬に、あんな事をされるなんて・・・。私の人生の中で、恐らくは。
最凶に最悪な一日だったと断言できる!
それというのも、全ての元凶は祥太郎先生に他ならない。
なーにが、小さい生き物を甘くみるな、だ。
ハムスターのくせに。ねずみ系の、生き物のくせに!!!
生意気にも人間みたいな口を利くなんて。

ああ、もう。この気分の悪さをどうしたらいいのだ。
昨夜必死で洗った顔は、まだ何だか生臭いような気もする。
おまけに夢の中でまで大きな犬に追いかけられてしまったのだから、当然寝起きも最悪。
また今から学園で、祥太郎先生の生意気そうな顔をみなければいけないのかと思うだけで。
益々気が滅入ってくると言うものだ。
何かいい、気分転換の方法はないものだろうか。



「あれー天音さん。どうしてそんなに機嫌が悪そうなんですか?」

私よりも遅れて生徒会室にやってきた咲良が、そう声を掛けてきた。

「おや、珍しい。瑞樹はどうしました?」

咲良が一人でここへやってくる事は、本当に珍しい。
いつも瑞樹と一緒にいるものだとばかり思っていたのは、間違いだろうか。

「瑞樹は今、白雪と一緒に大学部へ行ってますよ」
「大学部?」
「そうなんです。何でもカノンが向こうでXmasパーティーの企画をしているらしくて。
だったらうちも一緒にどうか、って話らしいですよ?」
「そうなんですか。カノンとは、また・・・久しぶりにその名前を聞いた気がしますね」
「しばらく仕事が忙しかったみたいですからね、仕方ないですよ」
「で?いつそのパーティーを?」
「あ、それなんですが。どうせならXmasミサの後に、やっちゃおうかなって思ってるんですけど」

なるほど、ミサの後にね。
もう差し迫っている期末考査を終えれば、我が校恒例のXmasミサだったな。
普段は宗教色を全く感じさせないこの学園も、Xmasミサだけは別格だ。
幼稚部から大学部まで、各校一斉にミサを行うこの日なら合同パーティーもしやすいか。

「それより、天音さん。どうしてそんなに機嫌悪そうなんですか?」

咲良が期待に瞳を輝かせて、私を見つめていた。
こいつめ、私の何を期待しているんだ?

「機嫌が悪いに決まっているじゃないですか」
「なんで?」
「祥太郎先生ですよ!本当にあの、猫かぶりの見事さと言ったら!完全に直哉は手玉に取られているし・・・」

私がそこまで言った途端、咲良が盛大に笑い出した。

「やだなぁ、天音さん」
「何がです!」
「祥太郎先生に、張合う方がいけないんですよ〜」
「・・・・・・・・・咲良まで!」
「あ、そうじゃなくて。張り合っても叶わない人には、適当に合わせるんですよ。
祥太郎先生は、ああいう人だし。真剣になればなるほど、面白がられておしまいです」

きっぱりと、咲良が言い切った。
・・・・・・・・・外見を裏切って、なかなか大人な考え方をしていることに私は新鮮な驚きを感じた。
まぁ、あの雪紀と付き合っているんだから。上手く割り切らないと、難しい事もあるんだろうな。

「咲良、一つ聞きたいことがあるんですけれど」
「何ですか?」
なんでも聞いちゃってください、と。咲良は胸を張る。

「あのですね、実は・・・・・・・・・」

私は慎吾から聞かされた、最凶の占いの結果を咲良に告げた。

「で、どうにかこの運勢を変える方法はないものでしょうか?」

咲良はアメリカで長く生活しているのだ。私達が知らない、何かいい方法を知っているかもしれない。
占いの結果は、眉唾ものだと私は思っている。
それでも気になるものは気になるのだ。どうにかしたいと思うのは、人間当たり前だ。

「あ、それならいい方法がありますよ」
「本当ですか!」

教えてあげます、と。咲良が私の耳元に唇を寄せた。

「・・・・・・・・・そんな、方法が」
「はい。考え方一つです、悪い運勢は誰かに移しちゃえばいいんですよ」
「それは・・・・・・」

日本で言う所の「風邪は人に移すと治る」みたいなものではないですか。

「悪い運勢を、VIRUSだと思えばいいんですよ」

・・・・・・・・・成程、な。
私は携帯を取り出すと、慎吾のナンバーを押した。
速やかに移して、しまおう。筋肉お馬鹿ならきっと、平気だ。