| 2004年 2月 1日(日) |
ガチンコマラソン?
いよいよ今日はガチンコマラソン当日!
私は準備よく、昨日から咲良と瑞樹を拉致…もとい、保護している。
慎吾は何にも言わなくても、ほいほい私の家に遊びに来るが、瑞樹と、特に咲良を監視の目から逃すわけには行かない。
どうしても負けず嫌いの雪紀が、咲良の足腰立たないような行為をしかねないからだ。
幸い子犬たちは、おばあ様の美味しい料理に釣られて、なんの疑問も持たずに我が家に泊まってくれた。
これだけでもすでに雪紀に一矢報いたと言えよう。
ということで、朝は4人で連れ立って学校へ行った。
もちろん日曜日の今日は学校は休みだが、手回しよく、学校側のOKは取り付けてある。
ところが、私たちは学校へつくなり、唖然と足を止めてしまった。
校庭が、まるで体育祭さながらに飾り付けられ、明らかに応援と分かるギャラリーが私たちの周回コースを取り巻いている。
それはいい。抱かれたい委員がふれ回ったはずだし、私たちの練習もあれだけ注目を集めたのだ。話題になって当然だろう。
だが、そこら中に溢れる、屈伸やら前屈やらをしている、やる気満々のむさくるしい男どもはなんだ?
「主賓の登場だ! こちらへお連れしろ!」
腕章をつけた男たちが寄って来て、私を引っ張る。
校庭には、朝礼台を利用したステージが設けられていて、私はそこにあがることを余儀なくされる。
「みんな! 今日のマラソンで1位になった組には、前年度白鳳マーメイドであり、今年度美少女グランプリを取った天音様が、ご褒美に熱いベーゼを下さるぞ!」
……………なんだそれは!
聞いてないぞ!
私は校庭を見回した。慎吾は聞いただけで喜んでいてお話にならないし、子犬たちは呆然としている。
その中に雪紀を見つけた。
ニヤニヤと笑っている。さてはあいつ…私への嫌がらせのためだけにそんなことをこの委員に耳打ちしたな!
私は委員のマイクをもぎ取った。
「分かりました。皆さん頑張ってください。1位になった方には必ず、報いることにいたします。」
歓声が上がる。雪紀が初めて真顔になり、それから真っ青になった。
お調子者め。自分がその対象になることを失念していたな。
買っても負けても後悔させてやる…!
そうして、賑々しく大マラソン大会がスタートした。
とはいっても、もちろん私の眼中には、生徒会役員しか入ってない。
私たちの組は、第一走者が瑞樹、次に祥太郎先生、咲良、慎吾と続く。
これは私の決めたオーダーだ。もちろんに意識するのは直哉と雪紀だけ。
あの目立ちたがりの雪紀が、ゴールテープを切る快感を見逃すはずはないし、これは万全のオーダーなのだ。
スタート地点から、瑞樹はびびっている。たった5キロだが、文系…と言うよりはすでにお座敷系の瑞樹にとっては大変な距離だ。
あたりは鼻息の荒い猛者どもだし、何より隣に立つ直哉が威嚇するような目で見下ろしている。
直哉の所に雪紀が激励にきた。
「ちょろいな、直哉。敵の第一走者は瑞樹だ。スタートダッシュでブッちぎれ。」
「断る。」
「なんだと〜!」
もめてる…。
「おまえ勝ちたくないのか!」
「別に。買っても負けても俺には何のメリットもないし、俺は俺の好きなように走る。」
「おまえ〜! 祥太郎先生と走りたいだけか〜!」
「当たり前だ。」
やっぱり。思ったとおり。
言葉どおり直哉は、祥太郎先生とびったり着いて走るためだけに、とろとろの瑞樹に合わせて走ってくれる。
瑞樹がものすごく遅れたお陰で、第二走者の祥太郎先生に引き継ぐころには、二人は別の意味で独走態勢に入ってくれた。
ちなみに私は、中継車の学校所有のワゴンからすべてを見守っている。
直哉は祥太郎先生の隣を走ることが出来て、至極満足そうだ。だが、祥太郎先生はなんだか怒っている。
「直哉くん! 真面目に走ってよ! これはちゃんと勝負なんだからね!」
「…わかってます。俺真面目ですよ。先生結構速いですよ。」
「結構ってなに! 馬鹿にして! もう絶対負けないんだから! むきー!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら走るお陰で、先生は息が上がっている。
だけど、直哉の言葉はまんざら嘘でもない。前を走る集団との距離が少しづつ縮んでいる。
走者が咲良と雪紀に変わるころには、前を走る集団との距離がだいぶ縮まっていた。
雪紀はイライラの境地で待っていた。この集団の前ではもちろんズルも出来ないし、ビリを走るのは彼のプライドが許さないのだろう。
もちろん祥太郎先生に勝ちを譲った直哉との差を補うかのように、雪紀は弾丸のように走り出す。そんなペースで10キロ持つのか?
だが、もちろん咲良も相当速い。
「さ〜く〜ら〜!」
いつも取り澄ました雪紀が、鬼のような形相で咲良に迫る。
「俺の前を走るなど許さ〜ん! 今晩が怖くないなら、そのままのペースで走っとけよ〜!」
「きゃー! 雪紀さん、怖いー!」
雪紀の奴…いたいけな咲良を脅すとは…見下げ果てた奴…。
だがともかくその必死の脅しは効いたらしく、慎吾に代わるころには前を走る集団の中にまぎれるようになっていた。
「慎吾!」
私はワゴンから身を乗り出して叫ぶ。
「分かってますね! 勝ったら…ごほうびですよ。もし負けたら、他の人に行っちゃいますからね!」
慎吾に向かって投げキッス。それだけで慎吾のボルテージは見る見る上がる。面白いほどだ。
「ようし、待っとれよ、天音!」
わははは〜!と慎吾の高笑いが響く。10メートルほど開いていた雪紀との距離が見る見る縮まり、程なく追い越す。
雪紀は焦ったようだが、もうペースが持ちやしない。それでも、後続との距離はだんだん開いているのだ。決して雪紀が遅いわけではない。
慎吾の馬力がありすぎるのだ。
最後は校庭一周。
一足先に帰り着いた私は、頼もしく独走する慎吾を見守る。
わがままでマラソンの距離を中途半端に伸ばしたイギリスの女王のように、私は真っ先にゴールをきった慎吾を目の前で見た。
「天音〜! 約束どおり勝ったで〜!」
汗臭い大きな体が抱きついてくる。私はそれを抱きしめて、頭を撫でた。他の3人も集まってきて、互いの健闘を褒め称えあっている。
特に瑞樹、本当によく頑張った。苦手なマラソンを克服してくれたそのいじらしさに、私は目頭が熱くなる。
ややあってゴールした雪紀はぜいぜい言いながら悔しそうだ。
当初の目的は、慎吾にも雪紀に勝る部分はあるという証明だったような気もするが…もうそんなことはどうでもいい。
そうして私は公約どおり、慎吾と抱き交わし、熱いベロチューをみんなの前で披露したのだった。