2004年 2月 18日(水)

ちょろり…

昨日、私の親衛隊の諸君が東奔西走してくれたお陰で、例のポスターもほぼ回収を終えた。
子犬たちにはいたく感謝され、私も鼻が高いというものだ。

だが、ポスターの回収率はほぼである。
最後の1枚がどうしても見つからない。

直哉はそのことで、いらいらとあたりじゅうに当り散らしている。
落ち着きなく動き回って、ついに自分で探し出すべく、生徒会室を出て行ってしまった。
直哉の機嫌が悪いお陰で、私の可愛い子犬たちが怯えているではないか。
どうしたものかと眉を潜ませていると、騒ぎの元本である祥太郎先生がやってきた。

「なに? どうしたの君たち、浮かない顔して。」
誰のせいでこんな顔になったと思っているのか…。
「だって、副会長がおっかないんですよう。」
子犬たちは声を合わせるようにして、祥太郎先生に訴えかける。

「この間のポスターの、最後の1枚が、どうしても見つからないんです。それで副会長すっかり怒っちゃって。」
「先生、何とかなだめてくださいよ。副会長が暴れたら、この学校くらい壊されちゃいますよ。」
…直哉はゴジラか?

「最後の1枚ってなに? 本気で回収したの? あれ。」
「そうですよう。」
「俺たちがやらされたんですよう。」
「へー、じゃあ、最後の1枚ってあれかな?」
「「祥太郎センセ、知ってるの?」」

祥太郎先生のさらりとした一言に、子犬たちは色めき立つ。

「うん、僕もらっちゃった。記念に1枚。」

「なんですって!」

子犬たちはきゃっと首を竦めた。
直哉が入り口で仁王立ちになっている。

「祥先生、本当にお持ちなんですか? あんなポスター!」
「うん。だってあんなに大きい写真ってないじゃない。」
「あんたは…っ!」

直哉は怒りのあまりかふるふると震えている。
子犬たちが恐ろしげに身を竦ませる中、祥太郎先生は一人で涼しい顔だ。

「この間も警告したじゃありませんか! あれをいかがわしい奴がどんな目で見ているかって!」
「そんなあ、みんな僕の可愛い生徒だよ。いかがわしいなんて…。」
「あんたはなんにもわかっちゃいない!」

落雷みたいな声で怒鳴られて、祥太郎先生はほんの少し首を竦めた。
それから子犬たちを見やって、なんだかふに落ちたような顔をしている。

「大体あんたはいつもそうやって隙を…!」
「………ごめんね。」

直哉の怒鳴り声が途中で止まった。
祥太郎先生は小さく肩を竦めてうつむいている。

「…君がそんなに僕のことを真剣に心配してくれてるなんて気が付かなくて…、僕、無神経だったよね。」
「い、いや、その…。」

どうした直哉! 形勢逆転か?

「だけど本当に僕、そんなに重大なことだと思わなくて…、あのポスター、うちに帰ったら、すぐ焼くよ。」
「や、焼くまでしなくても…。」

ひそかに全部のポスターの回収、搾取を試みている直哉だ。焼かれては困るのだろう。

「だって、僕の気がすまないよ。直哉くんをこんなに怒らせちゃって…。」
先生が小首を傾げて直哉を見上げる。
大体先生の目はウルウルしているように見えるのだが、それが尚いっそうだ。
そういえば、そんな女優がいたな…。
ウルウルの目で瞳を覗き込むようにして話を聞く、男殺しで有名な女優が…。

「ほんとうにごめんね。許してくれる?」
「もっもっ、もちろんです…っ。」

あーあ、仁王だの、白鳳の守護神だのといわれた直哉が、いいように手玉に取られちゃって…。

あまりの祥太郎先生の巧妙な手なずけ方にあっけに取られて、みんなぽかんと口を開いて直哉を見つめている。
だから、私だけだろう。先生がちょろりと舌を出したのに気付いたのは…。

祥太郎先生、あなたって人は…!