2004年 2月 20日(金)

おのれ…

朝から校内がざわめいている。
今日、「抱かれたい男グランプリ」が発表されるのだ。
もちろん生徒会室も例外ではなく、なんとなく色めき立っている。
もっとも、騒いでいるのは子犬ちゃんたちと慎吾だけなのだが。

子犬ちゃんたちが、予想しあってクスクス笑っているところに、珍しく雪紀が遅れてやってきた。
雪紀はいろいろ傍若無人な奴だが、時間だけはいつもきっちり厳守なのだ。
その時間にうるさいお陰で、ストイックな生徒会長の仮面を被っていられるのだから、守らざるをえないだろう。

異臭がして顔を上げると、雪紀と目が合った。
どうやら雪紀が湿布を張っているようだ。
咲良が目ざとくそれを見つけ、心配そうに傍に行った。

「雪紀さん、どうしちゃったんです、その右手…。」
「たいした事はないよ。ちょっとパソコンをいじりすぎてね。」

雪紀は私のほうを見返すとにやりといやな笑い方をした。
雪紀が腱鞘炎になるほどパソコンをするとは…。
訝っていると、校内放送が流された。

『善男善女の生徒諸君! いよいよお待ちかねの、本年度の抱かれたい男グランプリが決定いたしました!』

今年は女子部も参加ということで、発表が放送になったのだろう。
これなら、マンモス校でも、生徒全員を一堂に会することなく、伝達できるというわけだ。

『今年度は、白鳳HPの、抱かれたい男ページに設定した投票所への投票による集計といたしました。』

それは私ももちろん知っている。こっそり慎吾に票を投じたからな。
だが…待てよ。なんだか嫌な予感がする。

『今回は、複数票の投票も認めております。生徒総数を大幅に上回る投票、ありがとうございました。』

複数票…!
やられた!
雪紀の奴…、腱鞘炎になるまで誰に投票したというのだ!

「へえ〜。いまどきの高校は進んでるんだねえ。HPで投票か〜。」
「実行委員が手を抜いたんでしょう。これなら投票も集計もあっという間ですからね。」

感心顔の祥太郎先生に、直哉が解説を加えている。
のんきにしている場合か! 雪紀がセコイ手をつかったんだぞ!

『それでは、今年度の栄えある抱かれたい男第一位を発表いたします!
今年度は…。』

放送の背後から、ドラムロールが聞こえる。しょうもない演出だ。

『2年A組、滝 直哉君!』
「………なにぃ〜〜〜〜〜!!!」

一瞬あっけに取られた直哉が、スピーカーに向かって間抜けな雄たけびを上げる。
私はほっと胸をなでおろしていた。
とにかく私と慎吾が1位でなければいいのだ。

『おめでとうございます!』
「なにがおめでとうかっ!」

だからスピーカーに向かって吠えても無駄だというのに…。

『さあ、お楽しみ、抱かれたい男認定行事の発表です!
本年度は、中央駅前の、グランドロイヤルホテルのご厚意を頂きまして、
当ホテル1階のブライダルサロンショーケースにおきまして、
明日1日生マネキンをやって頂きます!』

「生マネキン…?」
聞きなれない言葉に首を捻る直哉に向かって、祥太郎先生がキラキラ輝く瞳を向けた。
「僕知ってる! マネキンの変わりに人が衣装を着て、マネキンみたいにずっと立って宣伝するんだよ!
うわ〜、直哉くん、それやるの!」
「う…っ。」

祥太郎先生の期待に輝く瞳から逃れられる直哉ではないのだ。

「すごい! 僕絶対見に行くよ! 頑張ってね!」
「あ……う……、は…はい…。」

むごい…。
仕掛けたのは雪紀とはいえ、祥太郎先生の追い込みは厳しすぎる…。

『ブライダルサロンの生マネキンと言うことであれば、当然ウエディング用のものであります。
しかるに、相手が必要! そこで次点の発表です!』

放送はまだ続いている。次点………?

『2年C組、国見 天音様! 惜しくも2位の彼には、ウエディングドレスを着ていただきましょう!
白鳳が誇る抱かれたい男1位2位の二人が飾るショーケースは、どこよりも華やかなものとなりましょう!』

何で私がウエディングドレス…!
思わず雪紀に詰め寄った私の背後から、なんとも幸せそうな慎吾の声がする。

「天音のウエディングドレス! 嬉しいわ、いっぺん見たい思てたんや!」

慎吾はすでに蕩けそうな顔をして私をじっと見つめている。
そんな顔でなつくな! どうにもほだされてしまうではないか!

「早よ明日にならんかな〜。天音の花嫁さんは、誰より綺麗やで〜!」
「あっ、当たり前です!」

思わず口走ってしまってはっとした。
慎吾は目じりをたらして喜んでいるし、雪紀はしてやったりという顔だ。
おのれ雪紀………! そういえばそのホテルも、雪紀の実家の事業の系列じゃないか!
許すまじ………。

こうして私と直哉は、お互いの思い人に言いくるめられた格好で、明日は1日恥を書かなければならなくなった。