2004年 2月 4日(水)

とりあえず

さて、可愛い咲良とデートだ。
まだよく事情が飲み込めないのか、おどおどしている彼を首尾よく捕まえると、私は意気揚揚と学校を出た。
無論、物見高い連中があとからぞろぞろついてくる。

ちょっとした大名行列だな…。

「あの…、天音センパイ、どうして俺とデートなんですか?」
不安に濡れた瞳をして、咲良が私を見上げる。
ほんの数センチの身長差だが、普段でかい慎吾に見下ろされつけている私には新鮮なものがある。

「おや、私とデートでは嫌ですか?」
咲良が拒否できないことを十分に知っていて、私は少し意地悪く聞いてみる。
途端に可愛い首がブンブン振るわれた。

「嫌じゃないです。そんなことないです。
でも、雪紀さん嫉妬深くて、俺、あとが怖いです〜。」
「それじゃあ雪紀には、私からたっぷり言い含めておきましょうね。
可愛い咲良をいじめたら、どんなことになるか。」

「苛めるとか、そういうんじゃないんです〜。」

咲良は真っ赤になってうつむいてしまった。
雪紀…、君は一体普段どんな破廉恥な行為をこのいたいけな子にしているんだ…?

ちなみに、私たちの後をついてくるのは、もちろん嫉妬に狂った雪紀をはじめとする生徒会の面々。
祥太郎先生に、カノンまでついてきている。暇人どもめ…。


とりあえず新宿に出た。
東口からアルタ前を通って進む。
地上に出たあたりで、後ろからついてきている列が乱れ始めた。

「あ、ここまできたら、僕紀伊国屋へ行きたいな〜。
大沢在昌の新刊欲しいんだよな〜。どうしようかな〜。」
「付き合いますから行きましょう。後は連中に任せればいいですよ。」

さっそく祥太郎先生と直哉が離脱。
なんだかすごろくみたいになってきた。

「天音センパイ、どこへ行くんです?」
不安げな瞳を隠そうともせずに、咲良が聞く。
「お腹がすいたでしょう。とりあえず腹ごしらえしましょうか。
雪紀じゃ絶対行かないところへつれてってあげますよ。」

着いたのは、老舗の甘味屋。
おばあ様が出張でお花の授業をするときに必ず立ち寄る店で、おばあ様やお弟子さんたちの御用達の場所だ。
もちろん私も小さいころからの常連で、色々融通が利く。

私の顔を認めた店長は、さっそく奥まった落ち着いた一角へ私たちを案内してくれる。
ここは新宿の喧騒とはかけ離れた佇まいになっている。
入り口付近で雪紀がどよどよと焦っているのが見える。
いかに傍若無人な雪紀でも、このように女性ばかりが集って、慎ましくささやかに言葉を交わしながら一時を楽しむ場所には足を踏み入れがたいのだろう。

「ここは、なんと言っても餡蜜がおすすめですよ。
その後ところてんを頂いてもいいですね。」
「あ、これ、美味しい。さっぱりして。」
「アメリカにはこんな上品なお菓子はなかったでしょう?」

咲良は色とりどりの甘味を目の前にして、やっと微笑を見せてくれた。
涙目でうるうるの咲良も可愛いけれども、もちろんにっこりしている咲良が一番可愛い。

「おや、咲良、ほっぺたに餡子がついていますよ。」

私は見え透いた口実を使い、ちゅっと可愛いほっぺたに唇をつけた。

遠くの方から、でかいわめき声が聞こえる。
雪紀の奴、どこで見ていることやら。

さて、可愛い咲良と、次はどこへ行こうかな。