| 2004年 3月 12日(金) |
まったくもう!
今日は、昨日とはうって変わって曇天だ。今にも雨まで降り出しそうな、そんな曇り空の中、学年末考査2日目が始まった。
まるで・・・今日の私の気分のようだ。どんな気分であっても、私が試験をしくじる事はない。それに明日の午後には生徒会全員で(祥太郎先生も)志賀高原にスキーに行くのだ。ホワイトデーもスキー場で過ごすなんてロマンティックな事この上ないですし。
そうは思っても・・・昨日の放課後の事が未だに私の頭を悩ませる。
昨日は、私とした事がつい暖かな陽気のせいか「居眠り」をするという失態を演じてしまった。そして更に夢まで見る・・・という始末。その夢はあまりにも悪夢過ぎて、現国以外の試験の間も気になって仕方がなかった。
しかし、そんな事くらいでは私の試験の結果は揺るがない。出来に自身はある。だが・・・夢に見たように、もし慎吾の試験があんな事になっていたら!
そう思うといてもたっても居られなくなって、試験終了後、私は一目散に生徒会室へと走った。今日の試験のために慎吾と待ち合わせをしていたからだ。
息せき切って生徒会室の前まで行ったとき、室内から「ぎゃははははは」という非常に下品な笑い声が聞こえてきた。
それは間違いなく慎吾の声だった。こんなに高笑いをしているのだから試験の方は大丈夫だったのでしょう、と私は一息ついてドアを開けた。
そして。室内に居るはずなどない人間を発見して・・・・・・・私は固まってしまった。
そこに有ったのは、以前、瑞樹にちょっかいを出してきた「変態保健医・前田」の姿だった。見れば白衣を乱し、眉間に青筋を浮かべて・・・片手に咲良の、そしてもう片手には瑞樹の襟首を掴んで立っている。
襟首を掴まれた二人は、まるで本当の子犬のように見えてしまうのが私には笑えましたが・・・・・。
その二人の視線が、私を捕らえた途端「キュウ〜ン・・・」という声が聞こえたような錯覚に襲われて。
さっきの馬鹿笑いは、この姿を見た慎吾が我慢できなかったのだろう。
「前田先生、何をなさっているんですか?」
私は思わず聞いてしまう。
「・・・・・・・こいつらの、飼い主は何処だ・・・?!」
くるり、と首だけを私に向けた前田は地を這うような低い声で、そう言った。
「・・・・・・・・・はい?」
「・・・だから、この!馬鹿犬ニ匹の!!飼い主は何処だときいているんだ!!!」
どんなに変態でも、こんなに声を荒げたことはないであろう前田の剣幕に私は一瞬、圧倒されてしまった。
「ここにくれば、こいつらの飼い主がいると思って来たというのに。・・・来てみれば、そこの大きな馬鹿犬が一匹だけじゃ話にならない。君が来たのは救いだな。ほら、こいつらの飼い主は?」
そう言って私の方に向き直ると、前田は両手にぶらさげた咲良と瑞樹を差し出した。
『ううう〜、天音せんぱぁい〜』
ぶら下げられた二人が、同時に私の名前を呼ぶ。
「飼い主・・・と言われましても。雪紀はあと一教科、試験が残っていますし・・・カノンは卒業してしまいましたし・・・」
「なら、君でいい。あの大きな馬鹿犬では話にならんが、君ならまだマシだ。この子犬の躾はどうなっているんだ?事もあろうか、神聖なる教会の裏手でお互いのH話など言語道断!犬として間違っているのではないのか!?」
前田の言葉に咲良と瑞樹は首を竦める。この怯えようでは、ここに連れて来られるまでに相当絞られたと見える。それにしても・・・・・・前だの言葉には私が許せない部分がいくつもある。ここで黙っていては私の名前に傷が付く。
「確かに。校内ではしたない話をしていたこの二人には問題はありますが。それにしても、前田先生?」
「何だ?」
私は殊更丁寧に、言葉を選んでいく。
「先刻から、何度も何度も・・・犬だの、馬鹿犬だの・・・躾だの。お言葉ですが、ここには人間以外はいませんよ?それとも先生の目にはそのように映るとでも?でしたら良い病院を紹介致しましょう」
私の言葉に、前田はふんっ、と鼻で笑って返した。そしてようやく、咲良と瑞樹の二人を離す。
「まったく、くだらない。犬を犬と言って何が悪い?そもそもきちんと躾の出来ていない犬が居る事が間違いだ。何だったら君も含めてこの、馬鹿犬共の飼い主に一からしつけ方を教授して差し上げよう」
そう言い捨てて、前田は生徒会室から出て行った。
「天音先輩〜」
「天音さん〜」
『ここ・・・怖かったですぅ〜』
前田が出て行った途端、二人は私にしがみ付いて来た。私は二人の頭をよしよし、と撫でながら慎吾を見る。
大きな体を生徒会長の行方の向こうに隠して、小さくなっているその姿に私は『確かに、馬鹿犬かも』と思ってしまった。
追記
咲良と瑞樹に起こった事は、後日改めて書くとしよう。