2004年 3月 13日(土)

THE・旅行!!

試験も無事終了し、生徒会役員+カノンで志賀高原に向かって出発した。
 雪紀の家の佐伯さんが運転する小ぶりのバスに乗って、数時間、私たちは一面の銀世界に到着した。

途中渋滞に巻き込まれ、着いたのはもう夜の9時を回っていた。
夕食は道すがら摂ってきたので、今日はもうお風呂に入って寝るだけだ。

 「それじゃ・・・みなさん、楽しんでください」
 「帰りも頼む」

佐伯さんは私たちに頭を下げると、また車に乗って去ってしまった。
 今晩くらい泊まって身体を休めて行けば、と私は佐伯さんに言ってみたが、明日も仕事があるという事で帰ってしまった。

全く、我が侭坊ちゃんの世話は大変らしい・・・・・
私は心の中で佐伯さんに同情する。






 「さて・・・何か飲みますか?」
 
 私はリビングに集まった皆に声を掛ける。
 咲良と瑞樹は早速お風呂に入ったようで、可愛いパジャマに身を包んでいる。

 しかも、この日のために、お揃いのパジャマを買ったそうだ。
高校生の男子がやることではないが、可愛いので許そう。
 お見立ては瑞樹の姉、柚葉ちゃんだとかで、柚葉ちゃんの趣味が前面に押し出されているパジャマだった。

咲良は白い猫、瑞樹は黒い猫を模したパジャマで、セットで猫耳のついた帽子が付いている。
パジャマのズボンは膝丈で尻尾がゆらゆらと揺れていた。
更に猫の足のようなふかふかのルームシューズという付属品まで揃えてあり、私は眩暈を感じた。

 「咲良、瑞樹・・・・そのパジャマは可愛いですけど、機能的ではないですね・・・尻尾も寝るとき邪魔じゃないですか?」
 「アホやなぁ・・・・天音」

私の素朴な疑問に、慎吾が茶々を入れてきた。

 「パジャマなんて、寝るときには脱がされるんやから、大丈夫やて」

慎吾は「なぁ?咲良」と咲良と瑞樹を振り返って同意を求めたが、咲良と瑞樹は真っ赤な顔で俯いてしまった。

 ああ・・・・私も無粋な質問をしてしまいましたが、慎吾はもっとデリカシーに欠けているようだ。


 「それよりも、何や、腹減ったなぁ・・・・・」

場の空気を感じていない慎吾は、ソファーに横になると、ぽつんと呟いた。
 私はそんなに空腹ではないが、育ち盛りの慎吾は燃費が悪く、すぐお腹がすくのだ。

 「あ・・・俺良いもの持ってきたんだ」

そう言って瑞樹が自分の部屋へと走って行き、何か手にして戻ってきた。

 「じゃーーーん!!マシュマロでーーーーす」
 「・・・・マシュマロのどこが良いものなん?」

慎吾ががっかりした表情で呟いた。

 「面白い食べ方があるんですよ。天音先輩、割り箸あります?」

何に使うのか想像が付かないが、私は瑞樹に割り箸を渡した。

 「えっと・・・マシュマロを割り箸に刺して、暖炉の火で焼くんですよ」

そう言いながら瑞樹が実演を始めた。

 火に炙られ、マシュマロがどんどん膨らんでゆく。

 「おおっ!!すげーーーーおもろいなぁ・・・・」

そのマシュマロを見て慎吾の目がキラキラと輝く。

 「ほんとだ・・・・俺もやりたい!!」

咲良も瑞樹の真似をしてマシュマロを火に炙る。

 「少し焦げ目が付いたら出来上がり・・・・はい、カノン食べてみて」

瑞樹は大きく膨らんだマシュマロが零れ落ちる寸前で火から離し、カノンに渡した。
 カノンは火傷をしないように慎重に口に運ぶ。

 「ん・・・・美味しい・・・・不思議な感覚だね。ふわふわしてて口の中で溶けたよ」
 「でしょ?」

瑞樹が自慢気に胸を張った。
 それを見ていた慎吾は、マシュマロを刺した割り箸を何本も持って火に炙り始めた。

 「おおっすげーーーおわっくっ付いた」

気が付けば皆が暖炉の周りで必死になってマシュマロを焼いている。

咲良は雪紀に、祥太郎先生は直哉に、マシュマロを焼いて渡していた。

可哀相に・・・あの2人は甘い物が苦手だ。
それでも雪紀も直哉も嬉しそうにマシュマロを食べていた。

 何だか幸せな光景ですね・・・・・・

私が少し離れた場所でワインを飲んでいると、瑞樹がマシュマロを私に差し出した。

 「ありがとう・・・それにしても瑞樹・・・・何でマシュマロなんて持ってきたんですか?好きなのですか?」
 「いいえ。明日はホワイトデーだから・・・・皆に気分を味わってもらおうと思って・・・・」

そう言って微笑んだ瑞樹はとても可愛く、私は思わず抱きしめたい衝動に駆られた、しかし、その時・・・・

 「天音〜〜マシュマロじゃ腹が膨れへん・・・・」

マシュマロを食べあげた慎吾が私に抱きついてきた。

 「しょうがないですね・・・・・」

私は立ち上がると、キッチンを物色するために歩き出す。

 「僕が何か作りましょう・・・・」

私の後をカノンが付いて来た。
カノンは料理が得意らしい。
欠食児童の慎吾のために、これから数日夜食を作らされることになるだろうカノンに、私は少しだけ同情した。