2004年 3月 20日(土)

帰宅。

 スキー旅行も今日で終了。
お昼過ぎに佐伯さんが迎えに来て、私たちはミニバスに乗り込んで一路東京へと向かった。

 祥太郎先生は、まだ微熱があるらしく、頬を赤く染めてフラフラしていた。
直哉はそんな祥太郎先生に、片時も離れず、終始面倒をみていた。
 病気で弱っている所為か、祥太郎先生は意外と素直で、直哉に甘える仕草さえも見せる。
心配そうな表情の直哉だが、時々甘えられると、その表情がヘラリと崩れるのを私は見逃さない。

 「何だか直哉が幸せそうで・・・・こっちの方が恥ずかしくなるというか・・・・」

誰に言うでもなく呟いた私に、咲良と瑞樹が、うんうんと頷いてくれた。

 今日が週末とあって、上りの車線は意外と空いていて、渋滞に巻き込まれず、スムーズに車を走らせる事が出来た。

 日々のバカ騒ぎに疲れたのか、車内は静かだった。

祥太郎先生は直哉の肩に凭れ、寝息を立てているし、咲良も祥太郎先生同様、雪紀の肩に頭を乗せて眠っている。
 瑞樹は太郎の入ったケージを覗き込み、太郎になにやら話しかけ、その様子をカノンが苦笑いで見つめていた。

この旅行で一番かわいそうな想いをしたのはカノンかも知れない。

 私がカノンに同情の視線を向けていると、急に肩がずしっと重くなった。

 「天音ぇ〜俺もこうして寝てもええか?」
 「重いから嫌です」
 「うわっ冷たい・・・・俺たちラブラブな恋人やん?」
 
 そう言って、慎吾が涙目で縋りつく。
 その様が可愛くてこれ以上慎吾を無碍に扱えない。

 「しょうがないですね・・・でも重くて嫌になったら起こしますから」
 「わーーい。」

ため息混じりに私が言うと、慎吾は私の肩に頭を乗せ、両腕を身体に巻きつけてきた。

 「ちょっ・・・慎吾、腕は外してください・・・苦しい」

抱きしめてくる慎吾の手を軽く叩くと、慎吾は渋々腕を引いた。

 私は肩に慎吾の重みを感じながら、車窓を流れる景色を見る。
いつの間にか眠った慎吾の寝息を聞いているうちに、私の瞼も重くなり、慎吾同様私も夢の世界へ飛び立つのだった。





 それからどれくらい時間が過ぎたのだろうか。
私は人の声で意識を浮上させた。
 それでも完全に覚醒はしていないらしく、瞼は閉じたまま、声に耳を傾ける。


 「なんか・・・・可愛いね」
 「しーっ咲良静かに、起きちゃうじゃん」
 「早くしてよ、瑞樹・・・・」

その声と同時に、ピカッと光が私を包んだ。

 「んっ・・・・」

私が眉を寄せ、瞼をゆっくり開けると、目の前にカメラを構えた瑞樹と咲良が居た。

 「瑞樹・・・・そのカメラは何ですか?」
 「ははは・・・あの・・・・ごめんなさい。天音先輩と慎吾先輩が肩を寄せ合って眠っている姿が可愛くって・・・・つい・・」

冷たく問うた私に、瑞樹がぺこぺこ頭を下げて謝った。

 「私と慎吾が可愛い?」
 「うん!凄く幸せそうな顔で眠ってたよ」

可愛いなど言われた事の無い私が言うと、咲良が元気よく応えた。
 何だかくすぐったい気持ちが、私を凌駕し、寝顔を撮られた怒りが消えていく。

 「そ・・・そうですか。でも、これは没収です」
 「あっ・・・・・」

そう言って私は瑞樹の手から、カメラを取り上げる。

慎吾と寄り添って眠る姿を人の目に曝したくない。
これは私だけの宝物にでもしましょうか。
もちろん、慎吾にも見せてあげない。

私は一人ほくそ笑み、また車窓を流れる景色に目を向けた。