| 2004年 3月 21日(日) |
春ら・ら・ら
明日は終了式だ。出入りのクリーニング屋が配達が間に合わないと言うので、散歩がてら取りに行った。
志賀高原はあんなに寒かったが、もう下界は春だ。桜の花もほころび始めている。
私はまだ3分咲きのそれらを楽しみながら歩いていた。
クリーニングに出したのは、制服だ。
私は春夏それぞれの制服を2揃えずつ持っている。
純白の学ランは、直哉や慎吾のいかつい身体にも、私や子犬たちの華奢な身体にもそれぞれ似合うように、オーダーメードとなっている。
だから2着持つと言うのは本当は酷く贅沢なのだが、どうしてもそこは譲れない。
だって純白なのだ。しかも学校にはすぐ泥まみれになってしまう慎吾がいたりするのだ。
白を白のまま着られないなんて無粋な真似は私には似合わない。
この季節は新入生がどこの世界でも多いためか、クリーニング屋はてんてこ舞いをしていた。
私の顔を認めるなり、店主が慌てて飛んできた。
「申し訳ありません、国見様。お届けは明日以降でも大丈夫とのお話でしたので…。」
「いえ、もうできていると伺ったので、散歩のついでに寄っただけです。ご心配なく。」
私の家は、おばあ様やおかあさんの高価な和服を始終出したり、内弟子さんたちのお稽古着を大量に出したりする上得意だ。
あまりの店主の恐縮振りに、かえって悪いことをしたかなと、ちらりと反省する。
しかしもう来てしまったものは仕方ないのだ。私は店内のスツールに腰掛けた。
「今お出ししてまいります。少々お待ちを。」
「はい。」
私は暇つぶしに店内に流れるポップスに耳を傾けた。
春特集と銘打って、春にちなんだ歌謡曲が流れている。
今流れているのは、「春ラ・ラ・ラ」という曲らしい。
しかし私は聞くに連れ、驚きで腰が抜けそうになった。
『春という字は3人の日と書きます。あなたと私とそして誰の日?』
おいおい、穏やかじゃない始まりじゃないか。
『あなたを好きになる前にちょっと愛した彼かしら。』
そんなこと…今の彼氏の前で言ってしまうのか?
『会って見たいな、久しぶり。あなたも話が合うでしょう。』
………それは絶対合わないと思う…。
『三人揃って春の日に、三人揃って春ラ・ラ・ラ……』
ほとほと頭が痛くなったころ、やっと店主が制服を見つけてくれたので、私はほうほうの体で店を逃げ出した。
まったく、女と言うものは、みんなそんな虫のいいことを考えている生き物なのだろうか…。
元彼に引き合わされる今彼も気の毒だが、今彼を見せ付けられる元彼も災難だ。
もうずいぶん昔の歌だと言う話だが、今も昔も、女性のそういう強かさは、繊細な我々男には分からない…。
衝撃を受けつつ帰ってきたので桜は全然目に入らなかったし、気付けば握り締めた制服はくちゃくちゃだった。
私は身の回りの静粛で愛情深い女性達にとりあえず感謝し、今の男子校がつくづく自分の水に合っているのだと、親に感謝したくなった。
明日は久しぶりに学校でみんなに会える。
これほど通学が楽しみな日は今までなかったことだ。