2004年 3月 5日(金)

卒業式

いよいよ、今日は卒業式。
朝も早くから、私たち生徒会役員は走り回っていた。

来賓の案内、接待までやらされた。
この学園の教師はとことん楽をしているように思う。

しかし、その教師の中でも、祥太郎先生だけは、私たち同様、走り回っていて、まるでハムスターがオロオロしているかのように、うろちょろしていた。
もちろん、その祥太郎先生のフォローをすべく、直哉は祥太郎先生の「金魚のフン」状態。

本来直哉がしなければならない仕事が私の方に回ってきて、大変だった。

 問題の生徒会長である雪紀は、私が書いた送辞の原稿に目を通し、暗記しようとしている。
しかし、私の書いた送辞は、やたらと長く、言い難い言葉をわざと羅列しているせいで、流石の雪紀もすぐには覚えられず、苦戦を強いられているようだ。

当たり前だ。
私が簡単な文章を書くわけが無いだろう。
雪紀に対する嫌がらせもこもっているのだから。

別に原稿を見ながら喋ってもいいんじゃないですか?と咲良に言われていたが、それは雪紀のプライドが許さないらしい。
私が書いた文章をきっちり、一字一句間違えずに読んでこそ、意味があるんだ、と言っていた。

 「お好きなように・・・・」

私は雪紀に向かって呟くと、講堂の式の準備を手伝いに向かった。

 講堂では力仕事が多いので、慎吾を担当にしておいたのだが、慎吾は「人の上に立つ」人間ではないらしく、全く準備が進んでいなかった。
私は仕方なく、慎吾に代わり、生徒たちに指示を出し、式場を作り上げた。

何とか時間までに準備が整い、在校生が入ってくる。
ざわざわと騒がしい生徒たちに、雪紀の注意が飛ぶ。
すると、ざわついていた会場内が、水を打ったように静まり返る。
 さすがカリスマ生徒会長、効果は絶大だ。

程なくして卒業生の入場が始まる。
しっとりとした音楽に合わせて、卒業生が入ってくる。

全員が揃い、いよいよ卒業式が始まった。



 「天音さん・・・・・なんかこういうのって眠くなりませんか?」

長い来賓の挨拶を聞いていると、横に座った咲良が私に囁いた。
 確かに、来賓の挨拶というものは、くだらなくて長い。
在校生も卒業生も、半分以上が寝ているんじゃないかと思うくらい、みんなの頭が下がっている。

 「咲良・・・・気持ちは分かりますが、私たちが寝たらダメですよ。頑張って起きててくださいね」

私はトロンとした目の咲良の背中を軽く叩いて、目を覚まさしてやる。

 「はぁ〜い・・・」

欠伸をかみ殺して返事をする咲良を見て、苦笑いを浮かべていると、卒業証書授与になった。

これは来賓の挨拶よりはマシだが、別に面白いものでもない。
クラスの代表が貰い受ける為、そんなに時間が掛からないだけマシかもしれないが。

そして、いよいよ送辞。
私はわくわくしながら、壇上の雪紀を見つめた。

淡々と話す雪紀に、私が悔しがっていると、咲良が雪紀を見て、「雪紀さんかっこいい・・・・・」と呟いた。
咲良には、淡々と送辞を読み上げる雪紀が輝いて見えるらしい。

私は何だか馬鹿馬鹿しくなった。
こんな事なら、幼稚な文章でも作っておけばよかったかもしれない。

いよいよラスト、生徒全員で「巣立ちの歌」の合唱になったら、瑞樹が泣き出した。
寂しくないと言いながらも、やっぱりカノンの卒業は辛いのだろう。
 卒業生退場の時なんて、咲良に抱きついて泣いていた。

おまけに咲良まで貰い泣きをして、子犬ブラザーズは抱き合ってオイオイ泣いていた。

 「2人とも素直で可愛いもんですね・・・」

その光景が微笑ましく、私の頬が緩む。

視線を巡らせ、祥太郎先生を見ると、予想通り、先生も泣いていた。
それでも、子犬たちと違って、涙を堪えているのか、プルプルしている姿が、また一層可愛さを増していた。
 直哉はそんな祥太郎先生の側に行きたいらしいが、他の先生もいるし、自分の立場もある為、先生に近づくことも出来ない。
悔しそうにしている直哉が不憫ではあるが、他人の不幸は実に楽しい。

私は暫くその楽しい光景を見物した。

そんなこんなで大変な行事も終わり、私たちもいよいよ三年生になる。
波乱含みながらも、楽しい学園生活が後一年しかないと思うと、すこし寂しく思えるのだった。