2004年 3月 8日(月)

人気者はつらいね。

ここのところスケジュールがみっしりだ。

すっかりなおざりになっていたが、今週から期末考査があるのだ。
学校側も卒業式の翌週にテストなどしなくてもよいのではないかと思うが、とにかく今年はそういう日程らしい。

私の悩みの種の慎吾は、珍しく真面目に勉強をしているようだ。

昨日のミュージカル観劇のときにも、必要なところ以外は爆睡していたことだし。
まあ、真面目にならざるを得ないだろう。終業式の翌日からみんなで春スキーに行くことになっているのだ。
初スキーの慎吾は、それは楽しみにしている。
赤点の一つも取れば、私が容赦しないのを、慎吾はようく覚えているのだ。


ということで、今朝も私はあくびをかみ殺しつつ家を出た。ああ、お肌に悪い。
沈丁花の香りに癒されながら木戸を潜ると、そこには見慣れた姿が立っていた。

「天音ちゃん、おはよう〜。」
「おや、乃々香、珍しいですね。」

白鳳学園の女子部に通っている乃々香とは、めったに行き合わせない。
乃々香の通学の時間帯が違うこともあるが、広大な敷地面積の白鳳学園では、女子部と男子部の最寄の駅の路線が違っていたりする。

「今日は乃々香、コウノトリなの〜。」
「は? なんですか、それは?」

乃々香の言動はいつも突飛だが、今日はまたそれが一際だ。
乃々香はなんだか得意そうに、セカンドバックからパンパンに膨れた袋を取り出した。

「これねえ、昨日のミュージカルを見たみんなが、住園さんに渡してって言ってぇ〜。」

中を覗き込むと、夥しい数の封筒…。
古風な女子部の生徒たちは、こんなところまで古典に徹するのか、殆どがピンクの封筒で、ハートのシールが封蝋代わりに貼られている。

「天音ちゃん、住園さんとお友達でしょう? 乃々香返事も頼まれてるの〜。だからコウノトリ〜。」

私は思わず頭を抱える。

「乃々香、それはコウノトリではなくて、伝書鳩でしょう?」
「あれぇ〜、そうだっけ〜?」

乃々香はふっくらとした頬を可愛らしくほころばす。
思わず脱力してしまうが、これが実に可愛らしいのだ。女子部のアイドルたる所以である。

「天音ちゃん、お願いしていいでしょう〜? 乃々香バッチリだってみんなに言っちゃった〜。」
「そうですか、…まあ渡しておきますが、あんまり期待しないで待っていてくれるように言ってくださいね…。」

乃々香は、また殺人的に愛らしい微笑を浮かべると、ゆっくりきびすを返し、手を振った。
リボンでまとめたくるくるの髪が、肩の上で元気に飛び跳ねていった。

私は渡された紙袋を手に、ため息をついた。さすがに雪紀が可愛そうになってきた。
見栄っ張りで意地っ張りな雪紀のことだ。
恋愛する気はさらさらなくても、情感たっぷりの返事をすべての手紙に書くのだろう。

今度の期末考査は、雪紀の学年トップが崩される、記念すべきテストになってしまうのかもしれない。