| 2004年 4月 1日(木) |
美女と珍獣
ここ数日私の部屋に入り浸ってだらだらビデオを見ている慎吾が、今日は元気がない。
繰り返されるワイドショーの同じような画面を見てから様子がおかしいのだ。
テレビでは、お笑いタレントが元レースクイーンの美女と結婚する話題で持ちきりだ。
そのチビで小太りな男は、彼の特徴である、唾が飛びそうな大声を張り上げて、得意げに結婚報告をしている。
数年続いて「抱かれたくない男�癸院廚虜造鯤櫃辰討い詒爐函�元レースクイーンの可愛らしい彼女とは、誰の目にも不釣合いだ。
『出川さんと彼女とでは、まさしく美女と野獣ですね!』
「野獣ゆうより…珍獣やな。」
慎吾がぼそりと呟いた。私は思わずその的確な表現に拍手したくなる。
「蓼食う虫も好き好きって言いますからね。彼女には彼のいいところがちゃんと見えていたんでしょう。
彼は結構評判が良いですからね。彼の性格について悪く言っているのを聞いたことがないじゃありませんか。」
「せやな。いいところもあるんやな。そりゃそうや。」
慎吾はふと真顔になると、私の顔を正面から見据えた。
「なあ、天音は俺のどこが好きでいてくれるん?」
「…なんです、藪から棒に。」
「だって、俺、考えるに、天音に釣り合う所なんかどっこもあらへん。成績も悪くていっつも天音に教えてもらわなテストもわややし…。」
そういえばさっき慎吾の携帯に、慎吾のお母さんから連絡があった。
成績表を直接両親のところに送られるような行いの悪さについて、こってり絞られたらしい。
「実家もただの転勤族のサラリーマンで、天音ん家みたいな旧家とは恥ずかしくて比べ物にもならないし…。」
「親は親ですよ。私には関係ありません。」
あっさり言うが、この広い屋敷や、典雅なおばあ様の存在が、慎吾の意外にナイーブな自尊心をときどき傷つけていることを私は知っている。
「同じサラリーマンでも、直哉ん家みたいに金持ちなら良いけど、それも違うし…。」
慎吾は恨めしそうに私を上目遣いに見上げた。
「それに、俺はカラスにまで馬鹿にされる男なんやで。
天音に置き去りにされて、俺悲しかったわ…。」
何かと思えば、結局それが言いたかったのか。
夕べは散々カラスごっこと称して、人のあんなところやこんなところをツンツンしまくったくせに…。
「もちろん、慎吾のすべてをひっくるめて好きなのに決まっているじゃありませんか。」
私はにっこり、自称マリア様の微笑を浮かべて慎吾を抱き寄せた。
拗ねた子供は宥めすかすに限る。
「慎吾のその、お馬鹿なところも、情けないところも大好きですよ。
誰にわからなくても、私だけは慎吾のいいところ、みんなわかっているんです。それで良いでしょう。」
慎吾のいいところがどこかを言わないのがミソである。
だけど本当に私は慎吾が大好きで気に入っているのだ。
何よりも、私のすべてを知っている人。この、表も裏もある私をすべて許してくれる人など、慎吾以外には見当たらない。
いつだって、リードしているように思われている私だが、本当は慎吾のおおらかさに心癒されているのだ。子供のころからずっと。
だから私は慎吾を手放す気はない。いつまでも私の胸の中で甘えていて欲しい。
「ほんなら、俺、胸を張って天音の彼氏してていいんやな。」
「もちろんですよ。不釣合いだなんて言うのは、私が許しません。」
私はきゅっと慎吾の頭を抱きしめた。
すっかり腕になじんだ大きな身体が、今日も私を安らげてくれる。
「よかった〜。俺、天音にそう言ってもらえて嬉しいわ。」
慎吾が大きな犬のように私に擦り寄って鼻を鳴らす。
それに白状すると、この珍獣は、私にとってはもっとも扱いやすく便利な忠犬なのだった。