2004年 4月 20日(火)

なかなか・・・

 「天音さん」
 今日の放課後。私は廊下で待ち伏せていた隼人に声をかけられた。

 ここは、3年の教室の前。通る3年が不思議そうに隼人を見ていく。それもその筈。
 いくら隼人の体が大きくても、1年生には見えない態度の大きさでも・・・白鳳の制服を着ている限り、学年を誤魔化す事は不可能な事で。
 滅多な事では、咲良や瑞樹ですら上級生の教室の前にはやってこないというのに・・・。

 どんなに通りすがりにジロジロ見られても、当の本人、隼人は平然としている。いや、これは「悪びれない」とでも言うのでしょうか?

 「何ですか?隼人。何か、私に用事でも?」
 仕方なく、私はありきたりな言葉で隼人に返した。

 「・・・用がなかったら、いくら俺でもこんな所に来たりしないよ・・・。まぁ、兄ちゃんの所には行くかも知れないけど?」
 ケロリとしたものだ。
 いくら私でも、1年生の頃はもう少し可愛気がありましたよ・・・?と心の中で毒付いてみる。
 一体・・・直哉は、いえ、滝家の人間はどんな風に隼人を育てたのでしょうか。

 「そうですね、何か用があったからこんな所まで来て下さったのですよね?で、隼人のご用件とは?」
 私は嫌味も込めて、最上の笑顔を隼人に向けた。
 近くで、私と隼人を覗っていた3年生が数人、顔を赤らめたのが私の視界に入った。

 けれど、それほどの笑顔を向けられても隼人は平然としていた。・・・・・・はっきり言って、非常に可愛くない子ですね、この子は。
 これが慎吾だったら今にも千切れんばかりに尻尾を振って、飛びついてくるのでしょうに。

 「いや、そんなに難しい要件じゃないけど。あのさぁ、生徒会が企画したクイズ大会?もちろん俺も出るから。あ、あと白雪も。もう一人は今探してるし。どうせ、生徒会はあいつら出してくるんでしょ?あの、落ち零れコンビって言うの?それともちびコンビ?はっきり言って、俺があんな奴らに負けるわけないから。大会止めるんなら今のうちだよ?天音さんだって、あいつらのせいで恥かきたくないでしょ?1年に負けた生徒会役員なんて、白鳳きっての恥さらし間違いなしだって」
 淡々と、本当に淡々と隼人は言った。
 私は心の奥底から湧き上がってくる怒りを押さえ込むのに必死だった。
 咲良や瑞樹が落ち零れですって?一体、どうしてそんな風に思ってしまったのでしょうか、隼人は。
 人間は見た目では判断してはいけない、という事を骨の髄まで教えて上げなければ。

 「わざわざそんな事を言いに来たのですか?隼人も大概、暇ですね?そんな事を言う暇があったら勝てるように勉強でもしたらどうです?」
 先ほどよりも、さらに痛烈な皮肉を私は口にした。

 「あれ?天音さん、心配してくれてんの?嬉しいなぁ」
 口の端だけを上げて、ニヤリと隼人が笑った。そんな顔は憎たらしいほど直哉に良く似ている。いや、直哉の方がもっと、凄みがあるか。
 
 「言いたい事を言ったのなら、さっさと帰りなさい。他の3年が見ていますよ?」
 何気にここかた立ち去りなさい、と言った私の言葉を理解したのか唐突に隼人は私に背中を向けた。
 数歩、歩いた所で立ち止まると隼人は振り返った。

 「ああ、言い忘れていた。クイズ研究会だっけ?問題作ってんの。俺のクラスにも部員が居るんだけど・・・部長さん?相当問題作るのに悩んでいるらしいね」
 それだけ言うと、今度は本当に帰って行った。

 何という事でしょう・・・私が極秘で問題を作っているのが隼人にバレていたとは・・・・・・。

 「こうしては、いられませんね。咲良と瑞樹と・・・あの筋肉お馬鹿を呼んで、猛勉強をさせなければ」

 私は急ぎ足で生徒会室に向かった。